共産主義者同盟(統一委員会)






■政治主張

■各地の闘争

■海外情報

■声明・論評

■主要論文

■綱領・規約

■ENGLISH

■リンク

 

□ホームへ

  
   ■破断したシャルルボワ・サミット

  トランプの「貿易戦争」とその矛盾       香川 空


 


 六月一二日、米帝―トランプと朝鮮民主主義人民共和国―金正恩(キムジョンウン)が史上初の米朝首脳会談を行なった。トランプと金正恩は、共同声明の冒頭に「双方の国民の平和と繁栄を希求する意思を反映し、新しい米朝関係を構築する」「米朝両国は朝鮮半島の永続的で安定的な平和体制の構築に尽力する」と明記した。そして、その具体的な内容として「板門店宣言を再確認し」ている。「板門店宣言」を再確認することは、四月二七日に南北で合意した朝鮮戦争の終結を確認したということであり、朝鮮戦争終戦から朝鮮半島の自主的平和統一への行程をトランプも容認したということである。
 東アジアの政治・軍事状況は大きく転回し始めた。朝鮮戦争の共同作戦計画、朝鮮戦争を想定した「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」、朝鮮戦争のため東アジアに駐留する米海兵隊は、その存在根拠を喪失する。この軍事状況は、反基地闘争を闘ってきたすべての仲間にとって好機である。軍事基地撤去、新ガイドライン―戦争法、そして日米安保そのものを解体する攻防を今こそ強めるときである。
 しかし現代資本主義全体は、トランプの中間選挙戦術の結果だけで「平和と繁栄」に向かうという状況ではない。トランプは自分の名声=選挙対策だけを重視して、カナダ・シャルルボワで開催されていたG7首脳会合を途中で放り出して、「米朝首脳会談準備」のためシンガポールに向かってしまった。他帝との全面対立が際立った今回のG7サミットの議場から逃げ出したトランプの姿は、米帝国主義そのものの現状を象徴するものであった。

  ●1章 帝国主義間対立を鮮明にしたG7首脳会議

 帝国主義各国が現代資本主義世界における利害と政治的軍事的支配を貫徹するための強盗会議―G7首脳会議は、六月八日・九日にカナダ・シャルルボワで開催された。直前のG7財務相・中央銀行総裁会議の最中に、米帝―トランプ政権が鉄鋼・アルミ製品の高率関税を中国、日本ばかりではなく、EU諸国、カナダ、メキシコに対しても実施することを突如発表した。仏帝財務相ルメールが「G6+1」だと表明せざるをえないほど、財務省・中央銀行総裁会議は混乱した。この対立を引きずったまま、シャルルボワ・サミットは開幕した。まさに帝間対立を浮き彫りにする事態となった。

  ▼1章―1節 財務相・中央銀行総裁会議の対立

 米トランプ政権は六月一日、EU・カナダ・メキシコに対して、鉄鋼・アルミ製品に対する高率関税を発動した。本年三月に鉄鋼製品25%、アルミ製品10%の高率関税を実施した段階では、EUとカナダ、メキシコに関しては、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などを条件として適用を除外していた。トランプは自身のブログに「公正な貿易を」などと掲げて、その適用除外を覆した。しかも、G7財務相・中央銀行総裁会議が五月三一日から六月二日にカナダで開催されている最中にぶつけて発表したのである。
 三月のイタリア総選挙で「五つ星運動」と右翼政党「同盟」が議席を伸ばし、EU批判の強いこの両党の連立か親EU派の組閣かで暫定組閣が難航し、イタリア国債の価格が下落し始めている。一方、スペインでは政権不信任案が可決される事態となっている。ユーロ安、欧州株安から、二〇一〇年のような欧州金融危機―通貨危機が再燃するのではないかと不安視され、「南欧問題」が今回のG7の主要テーマの一つとなるはずだった。
 しかし、G7財務相・中央銀行総裁会議は冒頭から、米国以外の六カ国が米国を批判する場となった。議長国カナダの財務相モルノーが、米財務長官ムニューシンに対して「米国の考え方はおかしい」と詰め寄り、全体の議題を「貿易問題」=対アメリカ問題に変更してしまった。モルノーの激怒は当然であった。七カ国の中でもカナダは、NAFTAの下で実体経済において米国との関係をとくに強めてきたからだ。カナダで生産する鉄鋼の四割以上が米国向け輸出になっている。この鉄鋼製品に25%の関税をかけられたら、カナダの鉄鋼業は大打撃を受け、失業者急増という問題に直結している。
 米トランプ政権は、鉄鋼製品・アルミ製品の高率関税を発動した根拠は、「通商拡大法二三二条」の「安全保障上の理由による輸入制限」だと強弁している。カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアはいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、米帝の同盟国である。トランプが軍事問題も経済問題も一緒にしてディール(取引)を行なうことを「外交」だとすることに対して、この同盟国の代表たちは憤ったのであった。「トランプ関税は同盟国への『謀反』」と報じられている。
 EUは世界貿易機関(WTO)に提訴する手続きに入った。EUは米国に二八億ユーロ規模の対米報復関税を準備し、カナダも一六六億カナダドルの対米報復関税の準備に入った。この状況の中で、日米安保の同盟国でありながら三月当初から関税適用除外がされなかった日本政府は、これまでトランプ政権に抗うことなく常に配慮を続けてきたのだが、その財務相麻生ですら「WTOのルールに違反する行為だ」と反対の意思だけはどうにか示した。
 財務相・中央銀行総裁会議は激論の末、米国対六カ国の亀裂を鮮明にして閉幕した。モルノーは「意見が割れているとの見解は一致している」と自嘲するしかなかった。G7は共同声明を採択することはできず、モルノーが米国批判を鮮明にした議長声明を発表した。議長声明は、次のようなものであった。「友好国や同盟国に米国がかけた関税は、開かれた貿易や世界経済への信頼を損なうとの懸念がしめされた」。「全会一致の懸念や失望を伝えるよう、米財務長官に要請した」。「米国の一方的な貿易措置が及ぼす負の影響を強調。この議論がサミットでも継続されるべきことに合意した」。
 G7直後にトランプ自身は自らのツイッターに「長い間、米国は他国にぼったくられてきた」「貿易戦争に負けない。賢くなるときだ」と書き込んだ。

  ▼1章―2節 逃げ出したトランプ、三時間後の「ツイッター反論」

 財務相・中央銀行総裁会議が混乱を極めて亀裂を鮮明にした一週間後の六月八日・九日、カナダ・シャルルボワでG7首脳会議が開催された。
 ムニューシンの報告を受けたトランプは、サミット出席を渋った。米政権内部では、米朝首脳会談を理由にペンス副大統領を代理出席させることが検討された。最終的には大統領が出席することになったが、トランプは一時間おくれでシャルルボワに到着し、主張したいことだけまくし立てて、二日目は途中退席してシンガポールに向かってしまった。
 首脳会議においても、財務相会議の対立は続いた。南欧問題や対中国問題が議事として予定されていたが、実際には米国の貿易問題に終始した。八日に始まった討議は、冒頭から対立した。独首相メルケルは紛糾する議論を集約するために、「米国との新たな対話の枠組み(米欧新協議)」を提案した。トランプは、この提案を受け入れた。しかし、首脳宣言の文書を確定する段階で、再び対立した。欧州諸国が必須とした「多国間ルールによる貿易の推進」の明記を、トランプが拒否した。これは、WTOを形成しそのルールに基づいて貿易・投資の自由化を進めてきた帝国主義間の合意事項の再確認だった。トランプ政権が仕掛ける「貿易戦争」はこれを逸脱するものだからこそ、トランプは認めることができず、対立はまさに決裂状態だった。安倍が折衷案として「自由で公正なルールに基づく」という「多国間ルール」という文言の入らない文案を提示し、トランプは「シンゾーの案に従う」と妥協した。
 しかし、これで帝国主義間の貿易をめぐる論争が決着という平和的な結末にはならなかった。トランプが途中退席したあと、「G7首脳宣言」が発表された。「首脳宣言」には「ルールに基づいた国際貿易体制の重大な役割を強調し、保護主義と闘い続ける」と掲げられ、朝鮮民主主義人民共和国、ロシア、中国、イランに対する制動を帝国主義の共同の意思として確認していた。この首脳宣言発表をもって議長国カナダの首相トルドーは、サミットは「間違いなく成功だ」と語った。しかし、同時に、同盟国―米帝の高率関税発動に対しては「カナダを侮辱するものだ」と厳しく批判し、七月に報復関税を課すと表明した。
 遅刻したうえ途中退席してシンガポールに向かう途中だったトランプは、トルドーの発言に激怒し、ツイッターで反論した上、「首脳宣言を承認しない」と再びシャルルボワ・サミットの論議と合意を拒絶した。シャルルボワ・サミットは帝国主義間の亀裂を鮮明にする結果となった。

  ▼1章―3節 上海協力機構の対抗

 シャルルボワ・サミットが6対1の激しい対立の場と化したその時に、上海協力機構の首脳会議が行なわれていた。
 上海協力機構は中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンで構成され、六月九日・一〇日に中国山東省青島で首脳会議が開催された。オブザーバー国イランの大統領ロウハニも参加した。開催国中国の習近平が議長として会議を主導した。
 ロウハニが米国の「イラン核合意」の一方的離脱を批判し、ロシア大統領プーチンは「シリアの主権」を主張してアサド政権を擁護する主張を行なった。採択された「青島宣言」は、朝鮮半島情勢に関して「対話による解決」を支持し、「イラン核合意」を維持すべきと明示した。また、「あらゆる保護主義に反対する」としてトランプ政権への対抗を明確にした。中国は、上海協力機構加盟国は「総人口が三〇億人を超え、国内総生産(GDP)は一六兆ドル」だとその規模を強調する。中ロが軸になりイランも参加する反米の枠組みが一つの勢力となってきているのである。

  ●2章 中東の戦乱をさらに拡大するトランプ政権

 4・27南北首脳会談、6・12米朝首脳会談を経て朝鮮戦争終結に向けて情勢が大きく転回し、東アジアの軍事状況・政治状況が大きく変化することを、われわれは東アジアの階級闘争に資するものとして評価する。しかし、われわれは決してトランプがこの情勢をもたらしたなどという評価はもたない。トランプは、自国の利害、さらに言えば、トランプ自身の利害のために、米国内での自分の支持拡大を第一に考えて政治的選択をしているにすぎない。トランプは平和を希求しているわけでは決してない。南北朝鮮人民をはじめとするアジアの労働者人民の利害と真っ向から対立している。
 韓国民衆の「ろうそく革命」が切り拓いた朝鮮半島の新たな政治状況によって、米帝―トランプ政権は「和平」を選択せざるをえなくなった。しかし、時を同じくしてトランプは、中東の戦乱を拡大している。トランプは、中東和平を破壊することが米国の利害だと確信しているのだ。
 米帝・仏帝・英帝は四月一四日、シリアでの化学兵器使用に関してシリア政府軍によるものだと断定して、シリアへの軍事攻撃に踏み切った。昨年四月の軍事攻撃以来、二度目の直接軍事介入である。帝国主義は、ロシア、イランがシリア―アサド政権との関係を強める状況に対して、独自に軍事介入することを狙ってきた。化学兵器使用の悲惨な映像が配信された直後に、事実関係を明確にすることなくアサド政権の使用だと決め付けて一挙に軍事攻撃に入った。この攻撃は、化学兵器禁止機関(OPCW)の調査団がシリアで活動する前に強行され、この調査そのものを行なわせないことをも目的にしていた。事実を封じ込めたまま、帝国主義各国の中東植民地支配の貫徹のためにのみ、軍事攻撃を強行したのだ。

  ▼2章―1節 イラン核合意の一方的離脱

 トランプは五月八日、イラン核合意から離脱することを一方的に表明した。イラン核合意は、二〇一五年にイランと米英仏中ロの六カ国が合意したもので、イランは高濃縮ウランやプルトニウムを一五年間生産せず、これに対してEUは制裁を解除し、米国は制裁を一部解除することが取り決められていた。前オバマ政権が、イスラエル、サウジアラビアのそれぞれからの強い反対を押しのけて、六カ国の合意としてまとめたものだった。実際には、国連原子力機関事務局長・天野之弥が、イランは「世界で最も強力な検証体制の下にある」と明言しており、核合意は六カ国によって履行されてきていた。この離脱は明らかに米トランプ政権の一方的な行為だ。
 トランプは「イランの核の脅威に対し、本物で広範囲かつ持続的な解決法を模索して同盟国と協働していく」としている。トランプ政権の現大統領補佐官ボルトンは、この核合意成立の二〇一五年には「イランの爆弾をとめるには、イランを爆撃せよ」と書いていた。トランプ政権は、中東地域全体に対する明確な戦略を明らかにしないまま、親イスラエルとオバマ外交否定ということだけで、中東和平の破壊に突き進んでいるのだ。

  ▼2章―2節 米大使館のエルサレム移転強行

 米帝―トランプ政権は五月一四日、在イスラエル大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を強行した。移転式典にトランプ自身は参加しなかったものの、大統領補佐官イヴァンカ、上級顧問クシュナー、財務長官ムニューシンなどが参加した。式典に出席したイスラエル首相ネタニヤフは「勇敢な決断」と絶賛し、「すべての国に大使館をエルサレムに移すように求める」と挑発的演説を行なった。
 昨年五月、クシュナーを伴ってイスラエルを訪問したトランプは、ネタニヤフと同盟関係を再確認した。さらに、ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を現職米大統領としては初めて訪問した。そして、昨年末一二月六日に「エルサレムをイスラエルの首都」と認定し、米大使館のエルサレム移転を発表した。パレスチナ人民が抗議行動に立ち上がり、アラブ諸国で米批判が拡大する中で、大使館移転は強行された。
 五月一四日は「イスラエル建国」七〇年にあたる日であり、パレスチナ人民にとっては難民になることを強いられた一五日は「ナクバ(大破局)の日」であった。トランプ政権は、この日に合わせて大使館移転を強行したのだ。パレスチナ人民の憤激が爆発したのは当然のことだった。一四、一五日と続いた抗議デモに対して、イスラエル軍は実弾を用いた鎮圧に出た。イスラエル軍の銃撃によって子どもを含む六〇人以上が殺害され、二七〇〇人以上が負傷した。
 このイスラエルの殺戮に全世界から非難が集中する中、トランプ政権は六月一九日、国連人権理事会から脱退することを決定した。この会見で米国務長官ポンペオと米国連大使ヘイリーは、人権理事会が「イスラエルを不当に糾弾している」と的外れな批判をした上で、人権理事会に対して「政治的偏向に満ちた汚水だめ」「恥知らずの偽善」とトランプ政権らしい汚い言葉でののしった。

  ●3章 米帝の危機の深化と現代資本主義

  ▼3章―1節 米中対立の構図の中で進む米帝資本の危機


 米トランプ政権は本年三月一日に鉄鋼製品・アルミ製品に対する高率関税方針を発表し、右に述べたように適用除外としてきたEUとカナダ、メキシコに対しても同関税を発動した。
 トランプ政権が、鉄鋼製品、アルミ製品にこだわって関税を発動しているのは、まさに中間選挙対策の環だからである。トランプが支持をつかんできたラストベルトと呼ばれる地域のピッツバーグやクリーブランドは鉄鋼やアルミを主要産業としてきたのである。そこには、トランプの国内政策が貫かれている。
 トランプは三月二二日には、中国に対して「知的財産権侵害」を理由にして「通商法三〇一条」による関税を含む一方的制裁措置についての大統領令に署名した。家電製品など一三〇〇品目を対象とするものだ。中国外務省は、制裁関税に対しては報復措置をとると即日反応した。その後、米中間では高官協議が行なわれ、一旦は関税の「一時停止」を合意した。
 しかし、トランプ政権は六月一五日、中国に対して新たな高率関税を七月六日から発動すると発表した。「知的財産権の侵害」を理由に一一〇二項目の輸入品に対して関税率を25%上乗せするというものだ。対象総額は五〇〇億ドル(約五・五兆円)であり、うち八一八項目、三四〇億ドル分を七月六日に発動する、とした。
 この発表に対して、中国商務省は一五日夜、即座に談話を発表した。「われわれは即刻、同じ規模で同じ強さの追加関税措置をとる」とした。また、中国の輸入を拡大して米国の貿易赤字を縮小するとした米中通商協議の合意事項も「すべて失効する」と態度を硬化させた。具体的には、中国側は六五九項目の輸入品、総額五〇〇億ドルに対して25%の関税をかけるとし、大豆や自動車など米国の主要輸出品五四五項目三四〇億ドルに関しては七月六日に発動すると、真っ向から対決する方針を打ち出した。

  ▼3章―2節 グローバリゼーションの矛盾

 米中「貿易戦争」は再び激しさを増している。トランプ政権は貿易問題の主敵をやはり中国と捉えており、米中間で決着をつける問題であるかのように見える。しかし、この米中「貿易戦争」激化に対しては、米国内の企業、経済団体、農民から反対の声があがっている。もちろん、GDP規模で世界第二位の中国の報復関税が発動されれば、米国の工業製品、農産物が直接の被害を受けるからだ。
 しかし、それだけではない。新自由主義グローバリゼーションの進展は、単純に貿易関係の拡大ではない。現代の貿易、投資の関係をおさえておく必要がある。
 かつて、日帝の自動車産業、電子・電機産業はアジアNIEs・ASEAN諸国、そして中国に生産基地を展開し、日本から部品供給を行なって組み立て輸出するという従属的な分業体系を構築してきた。現代帝国主義の機軸産業における資本輸出の展開である。九〇年代のソ連邦・東欧圏の崩壊、中国の市場経済化の進展に伴って、いまや、そのような構造は、中国などBRICS諸国も含めて世界規模で拡大している。
 たとえば、米企業アップルは、携帯端末を中国で組み立てて米国に逆輸入している。その実態において、中国企業が、米国から供給される部品を輸入するのは当然だが、ドイツ企業、韓国企業、日本企業からの部品輸入も必須なのである。
 この輸出入の差し引き金額だけ中国企業が儲けているという話ではない。帝国主義の電子産業資本が、労働力が必要な組み立て部門を中国企業に割り当てているにすぎない。ヒューレット・パッカードやDELLのパソコン生産とて同様である。九〇年代以降、グローバル・アウトソーシングなどと銘打って世界規模で展開されてきた生産体系である。しかし、この実体経済におけるグローバリゼーションの要諦は、その支配的な資本が技術を独占し、部品ごとの生産分業を決定し、労働力が必要な部門ほど低賃金の国・地域を選び出して、生産拠点を分割していくことである。米帝が知的財産権の保護に強烈にこだわるのは、まさに、そこに現代の資本主義的生産を独占し支配する根拠があるからだ。
 トランプの仕掛けた「貿易戦争」が、グローバリゼーションの進展に伴う貿易と資本輸出の関係を無視して強行されるとき、米国内においても、帝国主義間でも、新たな矛盾と対立を生み出し拡大することになる。

  ▼3章―3節 「中国製造二〇二五」

 昨年一〇月の中国共産党大会において総書記習近平は、党創立一〇〇年の二〇二一年に「小康社会」を完成させ、新中国成立一〇〇年の四九年には「社会主義現代化国家を築き上げる」ことを目標に設定した。この一環として「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立を進めてきた。この中国が二〇一五年に打ち出した経済戦略が「中国製造二〇二五」である。
 中国が目標とする「製造強国」に向けて、二〇二五年までを第一段階として製造強国入りの土台を固め、三五年までを第二段階として中国の製造業全体を世界の製造強国の中位水準まで高め、「建国一〇〇周年」の四九年を第三段階として世界一の製造強国にのし上がるというものである。
 そのために、中国は出遅れているハイテク産業でのキャッチアップが不可欠になっている。貿易の統計上の数量では、中国はパソコンや携帯端末、テレビなど電子・電機産業製品の輸出を拡大してきた。それはかつてのASEAN諸国のように帝国主義から部品を輸入し、組み立てて再び世界各国に輸出するという従属的な国際分業を基礎として進められてきたものである。しかし、この分業体系の中で中国の電子産業は、ハイテク技術を相当速いペースで掴み取ってきている。
 中国―習近平政権はこのハイテク技術のキャッチアップを国家的事業として加速させようというのだ。それはIT技術においてだけでなく、航空宇宙産業、自動車産業における電気自動車(EV)化、ロボット技術などさまざまな工業分野における技術力を世界一の水準に引き上げていこうというのである。
 トランプ自身の中間選挙対策はありつつも、米通商代表部(USTR)の狙いは、この「中国製造二〇二五」を叩き潰すことにある。習近平政権が目指しているのは、スターリン主義官僚組織を強化しながら、その管理の下に進める戦略的な国家独占資本主義化である。米帝ブルジョアジーが恐れているのは、現代資本主義の機軸産業となってきた自動車・機械、航空宇宙産業、電子・電機産業、化学産業、素材産業における技術において、中国に追いつかれるばかりでなく、追い越され、世界第一の位置を中国に奪われるという事態である。
 これは経済的な意味での産業競争力で米帝が中国に敗退するということを意味するのと同時に、その先端技術が軍事技術に直結するということでもある。

  ▼3章―4節 ドルの信任失墜

 米帝と中国の「貿易戦争」が本当に「戦争」といいうるところまで進むのか。それはトランプ政権しだいであり、また中国しだいでもある。中国は、トランプ政権の関税発動に対して、一つひとつ同規模の報復関税で対応している。或る意味では、米帝が妥協に持ち込む余地を残している。
 中国が「貿易戦争」で米帝を打ち負かそうとするならば、米帝の息の根を止める手段にでるはずだからである。莫大な貿易黒字ゆえに中国は米国債の最大の保有国である。中国が米国債売却に踏み出せば、ドル売りの投機が進み、ドルは暴落する。ドルの基軸通貨としての信任は一挙に失墜する。
 トランプが自国第一主義的政策を進めてはいるが、辛うじて現在でもドルが基軸通貨として通用している。国際的な決済はドルで行なわれ、準備通貨として比率が高いのはドルであり、為替媒介通貨はドルだという現実はある。米中「貿易戦争」の結果としてドルが暴落し、ドルが基軸通貨たりえなくなれば、統一的世界市場は成立しなくなり、貿易・投資は行き詰まるだろう。グローバリゼーション=現代資本主義の地球規模での展開が寸断され、分割されることになるだろう。
 国家的計画の下に資本主義化を進める中国は、人民元の国際化を目指すものの、現在のドルを基軸通貨として成立している世界市場を一挙に破壊することを望んでいるわけではない。したがって、中国は「米国債売却」という攻撃を発動する意思を見せてはいない。しかし、習近平、トランプの読みどおりに決着するとは限らない。
 トランプ政権の極端なイスラエル支持の中東政策は、米国内のキリスト教右派勢力などの支持を獲得しようとする選挙対策ではある。ただし、アラブ諸国に配慮のない外交政策がとれるのは、米国内のシェールオイル生産が進んだことによって、エネルギー問題で米国がアラブ諸国や石油輸出国機構(OPEC)への依存率が減少したという条件に支えられている。しかし、その結果、産油国から原油を大量に輸入するのは、米国から中国に変わっている。サウジアラビア、インドネシアと中国の間では、原油取引がすでにドルではなく人民元で決済されるようになっている。米帝の保護主義、孤立政策は、現実の貿易、投資の現場に変化を引き起こしている。国際的に通用するドルの比率を減らし、ユーロ、人民元の使用を拡大する結果をもたらしている。
 各国の中央銀行は、外貨準備の多くをドル資産―米国債で保有しきたが、ドルが不安定化することを見越して、外貨準備のうちの金準備の比率を高める動きが目立っている。とくに近年、ロシア、中国は金準備を増やしている。
 即座にドルが基軸通貨でなくなることをG7諸国も中国、ロシアも望んでいるわけではない。ユーロも人民元も、ドルに代わる基軸通貨となりうるものではないからだ。しかしながら、基軸通貨国であるはずの米帝―トランプ政権の危うい経済政策、外交政策がドル暴落の不安をかきたてており、欧州各国帝や中国、ロシアはトランプ政権を牽制する一方で、ドル体制崩壊への準備に着手しているのだ。

  ▼3章―5節 トランプ政権が加速する資本主義の危機

 トランプ政権は本年三月、六月と保護主義関税を次々に打ち出し、中国、他帝をはじめとした諸国との貿易関係を力ずくで改変しようとしている。しかし、前述したように、輸出入額だけを根拠にしたトランプ政権の「貿易不均衡」論で中国に高率関税を積み重ねても、進展するグローバリゼーションの下では、米国企業や他帝の企業が莫大な損失を被ることになる。保護主義の発動で勝ち残れるような交易関係、経済関係ではないのだ。ワシントン・コンセンサスの下、新自由主義グローバリゼーションを世界の隅々まで進めてきたのは、米帝をはじめとした帝国主義である。金融資本の利害ゆえである。まして、金融グローバリゼーションが進む現在、貿易や投資、投機の根拠を制約することこそ、現代資本主義の息の根を止めることになる。この危機に当惑するブルジョアジーどもとトランプ政権との間の矛盾は高まっている。
 トランプ政権は経済政策として保護主義を進めているというだけではない。帝国主義の世界資本主義支配の根幹としての政治的経済的枠組みを、経済的な損得だけで捉え、「不要」なものは破壊する立場に終始してきた。排外主義をあからさまにした移民・難民排除政策。地球温暖化対策の「パリ協定」離脱。米国・イスラエルのユネスコ脱退、イラン核合意の一方的離脱、国連人権理事会脱退。そして、シャルルボワ・サミット首脳宣言をツイッターで反故にする行為に及んだ。
 第二次帝国主義間戦争後の資本主義は、ブレトン・ウッズ会議での合意に基づいてドルを基軸通貨とするIMF・GATT体制をもって、「労働者国家」群と対峙しつつ世界資本主義の統一的市場を護持することで成立してきた。それは大戦の勝利を独占した米帝の圧倒的な軍事力と工業生産力に基づいていた。ブレトン・ウッズ体制を軸にした資本主義体制と、一方での核兵器を独占する国連安保理常任理事国五大国による政治的軍事的分割支配が貫かれてきた。
 六〇年代にドル危機を繰りかえした後、七一年の金―ドル兌換停止、七三年以降は変動相場制に移行した。七四―七五年恐慌に際して、帝国主義各国はランブイエで最初の首脳会議(サミット)を開催し、帝国主義間の妥協と合意の下に資本主義体制を護持する枠組みを再編してきた。G7の首脳会議と財務相・中央銀行総裁会議の下にドル基軸通貨体制を維持してきた。〇八年金融恐慌は、このG7(ロシアを加えたG8)では対応しきれないことが明白になり、BRICSや産油国などを加えた二〇カ国で緊急の金融政策、財政政策をとった。この合意によって、グローバル資本主義の金融連鎖破綻を辛うじて抑え込んだ。
 しかし、金融恐慌をG20が政治的に抑え込んだ結果、本来的な意味で好況へと転ずることはできなかった。米・日・欧州の中央銀行が実施した量的金融緩和によって政策的に資金供給がなされ、金融機関を救済し、株式相場を維持してきた。金融資本、金融投機資本は政治的に作り出された官製バブルで収益を上げ続け、そのことをもって「景気対策」が効いているかのように報じられてきた。しかし、一方では、労働者に対する強搾取はさらに強められてきた。一〇年から一一年には欧州金融危機―財政危機が引き起こされた。現在を「好況」だと評価する米FRBは次の「金融危機」を見据えて量的緩和から金利引き上げに転じている。しかし、資金が米国に向かって流れ出すと同時に、新興国から資金の流出がはじまっている。アルゼンチン、ベネズエラなどでは、通貨安、インフレを加速する事態になっている。
 本年二月には、ニューヨーク株式市場で株価が続落し、ドル下落が起こった。米中「貿易戦争」の激化は再び株式市場、為替相場に変動を引き起こしている。帝国主義の官製相場に支えられたバブルはいずれ崩壊する。そのときに、トランプはオバマのようにG20を召集して結束させることはできない。G7、G20の対立と亀裂は、現代資本主義の危機を劇的な事態へと導くことになるだろう。



 

 

当サイト掲載の文章・写真等の無断転載禁止
Copyright (C) 2006, Japan Communist League, All Rights Reserved.