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   ■加速する資本主義の危機と階級支配の矛盾

    コロナ感染爆発と新たな階級闘争

          香川 空

         
                          


  

 本年年頭からの新型コロナウイルスの感染爆発は、各国・地域によって時間的なずれはあるものの、国境を越えて全世界規模で感染が拡大し、すでに五〇万人を超える人々の生命を奪っている。ワクチン開発によるか否かはあるが、人類がこの感染症に集団免疫を獲得するまで、社会的にも政治的にもさまざまな手段を講じて、ウイルスと対峙していくしかない。
 都市封鎖や国境封鎖、休業、休校、社会全体がその活動の全部または一部を休止して、どうにか感染拡大のペースを緩やかにして対応してきた。われわれは、人民の命と生活、権利を守ることを掲げて、コロナ感染爆発状況の中での階級闘争を模索し、一歩でも前に進もうとしてきた。
昨年までには予想しなかったコロナ禍という新たな事態の中で、階級闘争、解放闘争、政治闘争、反帝闘争を進めていくために、今眼前で進む情勢を見極めていくことが問われている。コロナ禍ゆえに、現代資本主義の矛盾は急激に先鋭化している。新自由主義グローバリゼーションの階級的な本質はより鮮明になっており、支配階級の排外主義煽動はより極端な形をとり、その本性を顕わにしている。
 危機の中でこそブルジョアジーの階級支配は余裕を失い、その暴力的な本性をむき出しにしてくるだろう。露呈した現代資本主義の矛盾、階級支配の限界を捉え抜き、ともに新たな時代の共産主義運動を大胆に進めていこうではないか。

 ●第1章 新型コロナウイルスの世界的感染爆発

 ▼1章―1節 感染の拡大


 昨年一二月、中国・武漢で原因不明の肺炎が発生していた。本年一月九日に新型コロナウイルスが検出されたと報じられた。新型コロナウイルス感染症は、中国をはじめとしたアジア諸国、そしてヨーロッパ諸国で拡大した。
中国―習近平政権は三月の全人代を延期し、武漢を封鎖して、病院を急遽建設するなどの政策をもって感染爆発を押さえ込んだ。一方で、シェンゲン協定によって国境を越える人々の行き来が自由なヨーロッパでは、一挙に感染が拡大した。イタリア、スペインで医療崩壊が報じられる事態にまで至った。中国に次ぐ感染爆発となったヨーロッパ諸国からの人の移動によって、日本でもロシアでも感染が拡大した。さらに、米国での感染爆発が続いた。世界保健機関(WHO)は三月一一日、パンデミック(世界的流行)状態であると発表した。
 全世界の感染者数は六月二九日段階で一〇〇〇万人に達した。死者は五〇万人を超えた。
 感染拡大を封じ込めるためにとられた措置は、現代資本主義が推進してきたグローバリゼーションの流れにあえて逆らって、人々の移動を止めることだった。欧州各国や米国では、強制的な都市封鎖(ロックダウン)の措置がとられ、都市の人の移動を全面的に禁止した。国境が封鎖された。
 アジア諸国やヨーロッパ諸国での感染拡大、イタリア、スペインなどでの医療崩壊を対岸の火事のように捉えて感染症対策を怠った米大統領トランプは、三月に入って米国での感染拡大が一挙に進み出すと、その責任を中国―習近平政権に押し付ける言動を強めた。
 一〇〇年前のインフルエンザウイルスによる「スペイン風邪」は、米国で発生し、第一次大戦下にヨーロッパに展開した米軍がウイルスを拡散したのだった。しかし、今日の新自由主義グローバリゼーションの展開は、生産と流通、金融が国際的に拡大することで成り立っている。それゆえの人間の大規模な国際移動に伴って、急激な感染拡大が起こった。医学が進歩しているとはいえ、ウイルスを同定し、その感染力、引き起こす症状を精確に把握する前に、ウイルスそのものがいくつもの国境を越えて世界中に伝播した。
 百年前のインフルエンザウイルスの発生地は、米国のカンザス州、あるいはフランスのイギリス軍駐屯地エタプルであると言われている。しかし、「カンザス・ウイルス」とも「エタプル・ウイルス」とも呼ばれないし、感染を拡大したことをもって「米軍ウイルス」とも呼ばれることはなかった。トランプ政権や日本の極右の主張に従えば、まずは米国が「スペイン風邪」と呼ばれたインフルエンザの発生―感染拡大の歴史的責任をとるべきであろう。感染症がどこで発生したかを「責任問題」のように追及する論議など全く無意味である。問われていることは、感染症の原因が何で、どのように感染するのか、どのような危険性があるのか、予防できるのか、どのように免疫ができるのか、ワクチンができるのか、だ。
 新自由主義の下で、新型コロナウイルスのワクチン開発が製薬会社の国際的な競争として報じられている。しかし、本当に真剣にパンデミックを危機と捉えているのか、と問わざるを得ない。人民の生命を救うということはもちろんだが、世界規模の感染爆発による経済活動の封鎖、分断、停滞が本当に世界恐慌の引き金になるような危機であるのならば、必要なワクチン開発は国際共同事業としてなされるべきであろう。
 政治的思惑でPCR検査を徹底的に制限してきた日本では、ウイルスの感染経路どころか、感染の実態そのものを把握することすらできずに、人民の不安をかき立てている。

 ▼1章―2節 大封鎖(グレート・ロックダウン)

 国際通貨基金(IMF)は四月、世界経済見通しにおいて、世界規模のコロナ感染拡大がもたらした経済状況を一九二九年の大恐慌(グレート・デプレッション)と重ねつつ「大封鎖(グレート・ロックダウン)」という表現をもって示した。IMF専務理事ゲオルギエバは「経済への影響は、世界大恐慌以来最悪の水準になる」と語った。
 各国の経済は急激に落ち込んでいる。四半期ごとの国内総生産(GDP)で見ると、昨年まで2%台で推移していた米国は、一~三月期にマイナス5・0%に落ち込んだ。ユーロ圏では昨年0・1~0・3%で辛うじてプラスだったのが、一~三月期にはマイナス3・6%となった。中国は昨年6%台を維持していたが、一~三月期はマイナス6・8%と急激に落ち込んだ。
 新自由主義グローバリゼーションは、国境を越えて商品、労働力、資本が移動することで成立していたのだが、その移動を封鎖してしまったのだから、現代資本主義はその前提を失った。封鎖された都市では労働―生産がそもそも停止せざるを得なくなった。しかし、或る地方、国で生産されていた部品の生産が止まり供給されなくなると、その生産体系そのものが停止せざるを得なくなる。グローバル・アウトソーシングを極限的に拡大してきた現代資本主義は、国境を封鎖せざるを得ない事態に非常にもろい。
 生産への打撃とともに、大封鎖状況の中で人々の外出制限が続き、購買することも大きく制限された。世界市場が急激に収縮した。生産、流通、販売が急激に減少し、経済は停滞した。企業あるいは金融機関の倒産から連鎖倒産へと進んでいく恐慌とは異なった形で、世界経済総体が急激に収縮している。
 コロナ禍の経済への影響が二九年恐慌に擬せられるのは、国境封鎖、都市封鎖、生産停止の下で、休業―失業が急激に増大しているからだ。
 米国の失業率は昨年、そして本年二月まで3%台で推移していたが、三月には4・4%、そして四月には14・7%に跳ね上がった。五月の失業率は13・3%となっている。トランプは六月六日、この五月の失業率について「米国の歴史上最大の復活だ」と語り、さらに虐殺されたジョージ・フロイドさんについて「彼にとっても素晴らしい日だ」と言及して、厳しく批判された。トランプの差別言辞については後述するが、13%を超える失業率を「復活」などと認識する大統領には、この経済危機を解決することは絶対にできないだろう。13・3%の失業率についてのトランプの見解に批判が集中したのは、トランプはこの数字が株価に影響する一つの経済指標としてしか見ていないからだ。現実には、コロナ禍の米国で解雇された労働者は低所得者層に集中している。さらに、白人の失業率が12%強であるのに対して、黒人の失業率は17%にも達している。命と雇用の危機の時代に、その災禍が下層労働者に、黒人労働者に集中している現実と、トランプの言辞がかけ離れていたからだ。
 この実体経済の急激な変化は株式市場にも大きく影響した。ニューヨークダウ平均株価は本年二月一二日に記録した二万九五五一ドルから暴落し、三月二三日には一時一万八五九一ドルにまで下がった。日経平均株価も暴落し、三月一八日には一万六七二六円となった。
 実体経済の急激な停止、落ち込みと、危機的見通しで株価が暴落する事態の中で、経済全体の停滞を反映して、原油の国際価格も暴落した。本年年頭には一バレル五〇ドルだったWTI原油先物価格が急落し、四月二〇日には史上初のマイナス三七・六三ドルに陥った。
 急激な経済危機が進行する中で米連邦制度準備理事会(FRB)議長パウエルは三月初旬に臨時会合を開催し、0・5%の緊急利下げを発表。さらに三月一五日には一気に1%引き下げ、ゼロ金利政策を復活させた。パウエルは六月一〇日、このゼロ金利を二二年末まで維持する見通しを示した。
 新たなゼロ金利とその継続の発表、この金融緩和によって、金融市場に資金が供給され、実体経済回復の根拠のないままに株価だけが持ち直している。〇八年恐慌以来帝国主義各国が行ってきた官製相場が強められている。
 起こっている事態は金融恐慌から引き起こされたことではない。コロナ感染拡大との闘いであり、そのための封鎖措置である。しかし、新自由主義グローバリゼーションを推進する者たちがまず恐れたのは、これが引き金となって新たな恐慌に陥ってしまうことだった。金融当局者は何よりも、銀行をはじめとする金融機関を防衛するために動いている。

 ▼1章―3節 日本の感染拡大と安倍右翼反動政権

 安倍政権は三月一三日、新型コロナウイルス対策として「新型インフルエンザ対策特別措置法」改悪法案を可決成立させた。この法改悪によって、安倍政権は、新型コロナ対策で「緊急事態宣言」を発令して、労働者人民の基本的人権を制限する権限を握った。翌一四日、安倍は首相官邸で記者会見を行なった。「現時点で緊急事態を宣言する状況にはない」としながら、「必要であれば、手続きにのっとって実行する」と語った。
 五月三日の日本会議が主導する改憲集会に、安倍は九分間のビデオメッセージを送った。「緊急事態条項の必要性」という形で改憲の主張を行った。安倍は、新型コロナ感染拡大とその不安に乗じて、改憲=緊急事態条項の布石にしようという魂胆だったのだ。安倍の野望を絶対に許してはならない。
 安倍は二月二七日に小中高校休校を宣言し、三月二日から休校が実施された。中国・韓国に対しては入国制限をして、どうにか「収束」させようとした。しかし、国内での感染拡大にもかかわらず、PCR検査に条件をつけて検査実施を限定し、人民の命を救うよりも感染拡大を小さく見せることに躍起になった。この時点では、安倍は「東京オリンピック」の計画通りの実施にこだわっていたのだ。しかし、ヨーロッパ、米国での爆発的な感染拡大に直面し、そのままでは「オリンピック中止」という事態が想定されてきた。この状況に恐怖した安倍は三月二四日、急遽IOC会長バッハと電話会談し、「一年程度延長」を合意した。
 安倍政権は四月七日、新型コロナウイルス対策特措法(改悪・新型インフルエンザ等対策特措法)に基づき、「緊急事態宣言」を発令した。東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の七都府県を対象にし、期間は五月六日までの一カ月間とした。しかし、一六日には緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大せざるを得なくなった。
 安倍は五月四日、「五月三一日までの延長」を決定した。五月一四日に、八都道府県(北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫)以外の三九県について緊急事態宣言を解除。五月二五日に全国的に解除した。
 今起こっているコロナ禍は確かに緊急事態である。しかし、安倍政権の「緊急事態宣言」は労働者人民に「自粛」を、休業を強いただけであった。政府がなすべきことは、人民に対して指示を強制することではなく、その国家の組織と財政を費やして感染症対策をとることであったはずだ。誤解を恐れずに言えば、政府がなすべきことは大資本に対しての「要請」である。マスク、体温計、薬品、医療設備、感染者の隔離宿泊施設を、政策として確保し、生産、配布、充当するべきだったのだ。安倍政権がブルジョアジーに対する指示を躊躇した責任は大きい。
 実態は、安倍政権がPCR検査を積極的に行なわないことなど感染症対策を意図的に遅滞させたことで、多くの感染者を死に追いやる結果を招いた。そして、「自粛」強制―休業による所得の急減、あるいは倒産や事業縮小による失業と直結する生活破壊に対する保障は、決定的に遅れている。
 四月三〇日には、二五兆六九一四億円の補正予算(第一次補正予算)が成立した。「れいわ新選組」以外は賛成した。一律一〇万円の給付金や持続化給付金がこの補正予算によって執行された。五月二七日には、三一兆円の第二次補正予算案を閣議決定し、六月一二日に可決成立した。
 この過程で安倍政権の反人民的実態が露呈した。
 予算案に一律一〇万円給付を入れることすら、安倍自身が、与党(自公)の間で右往左往しながら決定する状況だった。かつ、その手続きにマイナンバーカードを絡めようとして、全国の自治体の現場に不要な混乱を生み出した。雇用調整助成金はその複雑な手続きゆえに、必要なところに渡らない事態が続いている。結果として休業補償は不十分で、全く補償されない事態も生まれている。
 しかも、持続化給付金は、電通、パソナなどが設立した「サービスデザイン推進協議会」が形式上は業務を請け負いながら、二〇億円を引き抜いた上で電通に再委託し、さらにその子会社に再々委託するという構造になっていた。本当に事業が継続できるか、という状況に追い込まれている中小零細企業、あるいは個人事業者に早急に給付されるべき資金が、政府と独占資本が結託して、その上前をはねるような癒着構造が、この緊急事態の中で強行されていたのだ。
 第一次補正予算、第二次補正予算の莫大な金額を安倍は誇っている。しかし、休業を強制された人々、失業した人々、営業継続が困難になっている零細事業者、個人事業者に、届くべき給付金が届いていない。
 このコロナ禍にあって、安倍政権の階級性、その右翼反動政権としての実態が顕わになっている。安倍晋三は、コロナ感染状況下で、命と生活を守ることよりも、この機に乗じて戒厳体制をつくりだし、改憲論議を進めることを狙っている。人民の権利を守るどころか、制限することに躍起になっている。感染拡大を理由にして、公共の集会施設を休館にし、集会の自由を大きく制限した。
 「休止要請」と一体であるべき休業補償の具体的財政支出になると、安倍政権の階級的本性はさらに鮮明になった。労働者の生活を第一に意図した休業補償どころではない。政治家と官僚同士の利権の奪い合いになっている。安倍政権はその腐敗した政治への批判を「コロナ対策」で払拭しようとし、小池は都知事選を念頭に置き、それぞれの政治利害で、派手な政治パフォーマンスを繰り広げている。

 ▼1章―4節 日本の経済状況と雇用破壊

 コロナ禍の「大封鎖」による深刻な世界経済危機について前述したが、日本はどうなのか。
 日本は昨年一〇~一二月の四半期のGDPが前期比マイナス1・9%(年率換算でマイナス7・3%)となっていたが、本年一~三期はマイナス0・6%(年率換算でマイナス2・2%)と2四半期連続のマイナスとなった。
 昨年一〇月の消費税増税によって、家計消費支出は一〇月以降一貫してマイナスになっており、新車販売台数などの指標もマイナスである。そこに、コロナ対策の「自粛」、休業、そして国境封鎖による輸出入の減退が、追い討ちをかける形になった。
 日本の完全失業率は、昨年の平均が2・2%だったのが、本年一月、二月が2・4%、三月2・5%、四月2・6%、五月2・9%と悪化してきている。そもそも日本の完全失業率は欧米の統計とは異なって数値そのものが低いのだが、その変化においても米国の失業率の急激な悪化のような変動を示してはいない。しかし、これは、今回のコロナ禍と雇用の変動を精確に示してはいない。完全失業率は、就業者に対する休業者の割合として計算されたものである。コロナ禍で職を失ったパート労働者の多くは、多くの企業が休業する中で求職活動そのものを止めてしまった。四月、就業者数の減少が八〇万人に達しており、失業者の増加数一三万人を大きく超えていたのだ。
 現実には、休業者が急激に増大している。本年三月まで二〇〇万人前後で推移していた休業者が、四月には六〇〇万人に達していた。前年同月比で四二〇万人も増加している。コロナ禍が雇用に及ぼす影響はまだ始まったばかりだということだろう。「休業」とはいっても、雇用調整助成金の使いにくさゆえに休業補償が十分には支払われない実態もある。さらに、四月、五月段階で休業であったものが、企業の経営状況によって失業していく事態もある。しかも、それは非正規労働者、外国人労働者から始まっている状況もある。
 安倍政権の、遅すぎて、不十分な政策が、下層から雇用を奪い、生活を破壊していく状況が始まっている。

 ●第2章 現代資本主義の危機はどこから始まっていたのか

 ▼2章―1節 〇八年恐慌以降の官製バブル資本主義


 コロナ感染症が始まる前の昨年一〇~一二月期の日本のGDPの急激な落ち込みに明らかなように、コロナ対策での封鎖、「自粛」ということが影響する以前から、現代資本主義は行き詰っていたのだ。
 〇八恐慌は、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻に顕著なように、不動産を担保にして労働者人民に貸し出しを拡大し、それらを証券化して金融商品にしていく手法で、金融バブルを膨張させていた。しかし、住宅バブルの崩壊とともに一挙に瓦解し、投資銀行ばかりでなく、金融機関の破綻が世界規模で連鎖する事態であった。米国発の金融恐慌へと拡大する状況だった。当時の米オバマ政権は帝国主義国、BRICs、産油国など二〇カ国に呼びかけ、ワシントンでG20サミットを開催した。翌年のロンドンでのG20サミットで参加各国の財政政策を積み上げ「総額五兆ドルの財政出動」と発表した。
 米国発の金融恐慌が世界恐慌として深化する事態の中で、米帝は五つの投資銀行を破綻させるか銀行に吸収させるかして消失させたが、G7―G20とIMFは、この金融恐慌の温床となった世界規模の金融自由化そのものを規制することはできなかった。ヘッジファンドのような投機資本を規制する論議はあったが、投機資本も銀行も、新自由主義政策の下、世界規模で自由化された金融システムによって収益をあげているのであり、ヘッジファンドだけを規制することは困難なのだ。
 〇八年恐慌によって、財政的逼迫が露呈したギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの欧州諸国で債務危機が深刻化した。これに対して、IMFや欧州中央銀行(ECB)は経済危機に陥った諸国に緊縮財政を強いることで、欧州全体への経済危機の波及を食い止めようとした。銀行をはじめとする金融機関と金融システムを堅持するためにはゼロ金利政策や巨額の財政政策をとりながら、財政破綻に瀕した諸国には緊縮財政を強いて労働者人民の生活破壊を進めたのだ。ギリシャをはじめとする南欧諸国人民は、この現代資本主義システムそのものに対する大衆行動に立ち上がり、対抗する政権も生み出されてきた。
 〇八年恐慌は、日米欧の帝国主義の延命策動によって、世界経済の徹底的破壊にまでは至らず、各国経済は長期の不況状態を続けてきた。前述したように、ニューヨークダウ平均株価は、米国がコロナ禍に陥る直前の二月一二日には三万ドルにも達する状況だった。
 しかし、これは、日・米・欧それぞれの中央銀行がゼロ金利、さらにはマイナス金利をも実施して、金融緩和を続けてきたことで起こっていることにすぎない。株価は本来、その企業の利潤獲得(剰余価値をいかに搾取しているかということだが)や、その結果としての投資に対する配当から評価されるものであるだろう。しかし、今や、投機の対象として、政策的な金融緩和、あるいは年金積立金運用の株式投資比率を高めるなどの手法によって、恣意的に株価の引き上げが行なわれているのだ。
 実体経済とはかけ離れた手法で株価の引き上げが政策的に行われ、これが景気浮揚だとされている。まさに官製相場、官製バブルというべき偽装がなされてきたにすぎない。日銀総裁黒田が掲げた「2%インフレ」目標すら達成することはできず、日銀が国債を買い支えて、政府は借金を拡大し続けてきた。昨年一〇月の消費増税後のGDPの急激な落ち込みは、このアベノミクスのメッキでは偽装することのできない深刻な経済状況に至っていたことを示しているだろう。

 ▼2章―2節 進行する危機は「コロナ恐慌」なのか

 マスコミの報道には「コロナ恐慌」「コロナ大恐慌」などの言葉があふれている。販売のための刺激的な文句という側面もあるが、多くの経済指標が、〇八年リーマン・ショック以来、あるいは二九年大恐慌以来の落ち込みを示しているからだ。
 第二次大戦後の資本主義は、軍事・経済・政治にわたる一超大国―米帝を中心国として五〇~六〇年代に経済成長を続けたが、復興した他帝との争闘、そして第四次中東戦争後の石油危機、ベトナム民族解放革命戦争の勝利=米軍の敗北という状況の中で七一年の金―ドル兌換停止、七三年変動相場制への移行と国際通貨体制が激変し、七四―七五年恐慌に突入していった。それ以降、八七年世界的株価大暴落(ブラックマンデー)、九七年アジア通貨危機、二〇〇八年恐慌から一〇年代欧州各国の債務危機と、経済危機をくり返してきた。
 とくに九〇年代以降、英帝、米帝が金融自由化の推進を軸としつつ、新自由主義政策を地球規模で拡大する中で、金融投機に直結する金融バブルの促進がFRBなど金融当局の政策としてなされてきた。現代帝国主義がそれを選択したというよりは、帝国主義各国の金融資本が延命するためには、バブルが収縮するたびに次のバブルを政策的に作り出すという事態に陥ってきたというべきだろう。
 前述したように、〇八年恐慌においては、世界恐慌としての破産の連鎖を政策的に止めたがゆえに、資本主義としての景気循環としては進展せず、ゼロ金利、マイナス金利、量的金融緩和をカンフル剤のように続けながら、延命している状況にある。
 われわれが直面しているコロナ感染爆発は、われわれの命、生活に直結する災禍であると同時に、世界規模で「大封鎖」せざるをえない。ヒト・モノ・カネの国境を越えた移動という新自由主義グローバリゼーションそのものの前提を否定する事態を引き起こしている。コロナ禍自体は、資本主義内部の矛盾の発現ということではない。しかし、〇八年以降の一〇年で明確になったことは、非常に脆弱になった資本主義は、各国の金融政策や財政政策の刺激で回復するような状態ではないということだ。だからこそ、コロナ禍が、この資本主義の危機を大不況に引きずり込んでいく可能性は大きい。

 ▼2章―3節 G7―G20内部の対立と本当の危機

 二〇二〇年のコロナ禍が現代資本主義にとって危機であることの本当の意味は、むしろ世界規模での政治的危機だということだ。
 これまでの世界規模での経済危機と比較してみても、帝国主義各国やスターリン主義国、旧スターリン主義国など、国連安保理常任理事国やG7、G20を構成する諸国が、世界的なコロナ感染爆発とそれによって引き起こされる経済危機を解決しようとする根拠―国際的枠組みを喪失していることだ。
 かつて、七四―七五年恐慌に際して、一超大国としての位置からずり落ちた米帝の力だけでは解決しようもなく、帝国主義各国がサミット首脳会合を開催し、G5―G7(財務相・中央銀行総裁会議)を形成することで、資本主義システム(基軸通貨体制と統一世界市場)を防衛しようとした。七〇年代、八〇年代、未だ冷戦下にあり、帝国主義各国は世界市場をめぐって争闘を繰り返しながら、一方で、ソ連・東欧圏、中国、ベトナム、キューバに対する体制的対抗を共有し、資本主義体制を護持する意思がはたらいていた。
 〇八年恐慌は、帝国主義国だけでは解決できない規模と緊急性をもって事態が進んでおり、当時のオバマ政権がG20サミット開催を呼びかけ、現代資本主義の金融システムの防衛に利害を持つ首脳たちの合意で、恐慌の進展を押し止める政策が世界規模でとられた。〇八年金融恐慌は、新自由主義グローバリゼーションの進展が引き起こしたものだった。G20各国は新自由主義グローバリゼーションそのものを否定しようとはしなかった。各国首脳、各国ブルジョアジーは、新自由主義グローバリゼーションの推進を自らの利害とし、そこに生きているのだ。G20各国は金融政策、財政政策を総動員して、金融システムの連鎖破綻を抑え込んだ。中国をはじめ帝国主義国、BRICs、産油国などG20諸国は「総額5兆ドル」の財政政策をもって、新たなバブルを創出しようと試みた。〇八年に連続する一〇年代の欧州債務危機―金融危機に際しては、IMFとECB、欧州委員会が「トロイカ」を形成して、南欧諸国の債務救済を行うと同時に、その条件として緊縮政策・民営化など新自由主義政策の徹底を強制した。
 その過程においても「バイアメリカン条項」をはじめとする保護主義の始まりなど、争闘、対立、主導権争いを孕んではいたが、帝国主義をはじめとするG7―G20諸国は資本主義体制そのものの危機を「共有」せざるをえず、この世界体制を防衛せざるをえなかった。
 今、コロナ禍によって露呈し深化する現代資本主義の危機は、〇八年のG20のごとき枠組みでなければ、解決できない問題であるのだが、トランプ政権発足以来四年間におよぶ米中対立、あるいは欧州各国や日帝において高まる排外主義ゆえに、七五年とも〇八年とも異なる深刻な対立の時代に突入しているのだ。
 本年のコロナ禍は全世界の人々を命の危険にさらし、さらに世界経済に大きな衝撃を与える事態に進んでいるにも関わらず、G7もG20もその姿はかすんでいる。本年のG7サミットの主催国は米国であり、当初の予定では六月一〇日から米国キャンプデービットで開催することになっていた。コロナ禍でテレビ会議に変更されたが、今秋の大統領選が迫る中支持率が急落したトランプは、「外交的成果」をあげるために六月下旬にホワイトハウスに各国首脳を集めた通常形式の会合を開催する方針を打ち出した。これに対してドイツ首相メルケルは渡米しない旨を回答した。トランプはこれに激怒したと報じられている。その後、トランプはG7首脳会議を九月に延期してワシントンで開催する方針を表明している。
 トランプは米大統領に就任して以来、G7首脳会議に遅刻したり途中退席したり、あるいは会議後に議長声明を否定したり、を繰り返してきた。地球温暖化対策にも「貿易と投資の自由」にも反対し、「米国の利害」だとして自らの主張を押し通してきた。このメルケルとのやりとりと同時に、五月二五日には「WHO脱退」を表明している。
 トランプは、中国への対抗だけで動いているわけではない。同盟国のドイツ、韓国、日本に対しては、駐留米軍経費負担の増額を要求している。ドイツに対しては駐留米軍三万四千人のうち九五〇〇人を削減する計画であることが、六月に明らかになっている。守銭奴トランプだからということだけではない。負担増額か米軍撤退か、ということが米帝国主義の直面する現実なのだ。世界最大の軍事覇権国家―米帝国主義が、全世界に展開する米軍を自らの財政で維持することが困難になっているということだ。これまでも日帝の「思いやり予算」のごとき軍事負担の増額によってどうにか維持してきたが、それでは維持できないところまで米国が衰退しているということだ。
 産油国間でも対立が起こっている。コロナ禍で世界規模の経済危機が懸念されて、本年年頭から原油価格は下がっていた。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどによる三月の「OPECプラス」の会合で、サウジアラビアが協調減産を主張したが、ロシアが拒否して確認できなかった。サウジアラビアは逆に大幅な増産に踏み切って原油価格を下落させることで、ロシアに決断を迫ろうとした。四月に入ると原油価格は一バレル二〇ドル台に下がった。これに困窮したのは米トランプ政権である。米国はシェールオイルによって世界最大の産油国になっているが、シェールオイルは二〇ドル台では採算がとれない。四月一日には米シェール企業一社が経営破綻した。しかし、米国はOPECプラスに参加している訳ではなく、これまでも協調減産を行ってはいない。サウジアラビアもロシアも、この米国シェールオイル企業のあり方を認めてはいない。
 大統領選挙直前にシェールオイル企業の破綻続出を恐れたトランプは、サウジアラビアとロシアに協調減産に合意するよう強く働きかけた。四月一二日、OPECプラスは六月からの協調減産に合意したが、原油価格はその後急落し、マイナス価格を記録する事態となった。六月からの減産で一バレル四〇ドルになっているが、一ヶ月ごとの協調減産延長を合意している。産油国間に本質的な合意はできていない。綱渡り状況なのである。
 現代資本主義のコロナ禍における危機は、「大封鎖」ゆえに新自由主義グローバリゼーションの展開が困難になるという経済への直接的打撃以上に、帝国主義各国、あるいはG20構成国、国連安保理常任理事国などが総結集して危機を共有することができない政治的対立にこそある。七四―七五年恐慌や〇八年恐慌における帝国主義各国の対応を、現在の帝国主義も中国もロシアもとれないことにある。感染症そのものの解決を遅らせ、現段階では予想できない経済危機の世界的波及への対応も困難となるだろう。

 ●第3章 階級支配の危機(独裁的ヘゲモニーの喪失)

 経済的危機、そして大国間の政治的対立がコロナ禍の危機を拡大している現実を見てきたが、さらに深刻な危機は、帝国主義国をはじめとする各国の階級支配の危機である。感染拡大の恐怖と生活破壊が進む中で、帝国主義国内部の階級支配が限界に達している。
 欧州各国や米国の都市封鎖(ロックダウン)、日本の「自粛」強制と、コロナ感染爆発の緊急性と見えない恐怖を背景にして、さまざまな統制が行われてきた。生産活動の停止、さまざまな公共サービスの縮減、教育活動の停止、移動の禁止、国境の封鎖。各国政府は国内人民の十分な了解を得て、これらの措置を行っているのか。各国政府と労働者人民とのこれまでの関係が、大きく浮き彫りになっている。労働者人民のだれもが「政権が信頼できるのか」を真剣に考えている。生命と生活のかかった深刻な問題だからだ。現代資本主義が拡大してきた格差が、より極端に拡大している。命が選別され、本当に生活が破壊される事態が突然起こっている。これに対する憤りが爆発し始めている。
 国境が封鎖されているがゆえに、コロナ感染拡大への各国の対処の違いはむしろ鮮明に表われている。選択された政策の違いはありながら、韓国、台湾、ニュージーランド、あるいはスウェーデンの政府が一定の評価をされてきた。強権的反動政権、新自由主義に固執する政権においてこそ、その統治能力の減退は明確に表れている。
 コロナ感染が拡大する状況の中、米国では五月二五日、白人警官がジョージ・フロイド氏の首を圧迫して殺害する事件が起こった。国家権力―白人警察官による黒人への暴行―殺害に対して、抗議行動は全米に、そして全世界に拡大した。この人民の憤激は警察官以上にトランプ政権に向かっていた。全米で過去七年間に、警察官に殺された容疑者は、人口比に比較すると黒人は白人の二・五倍になっている現実がある。そして、トランプの差別的言動は労働者人民の怒りの炎に油を注ぐものになった。新型コロナの死亡率は黒人、ヒスパニックが高率になっている、社会的現状がある。
 人種差別と同時に、コロナ禍で米国内の格差が大きく拡大していた。コロナ感染拡大のために解雇された労働者は低所得層に集中しており、所得が減った労働者も低所得層の割合が高い。コロナ感染はあらゆる人々に可能性はあっても、コロナ禍での生活困難は格差ゆえにあり、さらに格差を極端化している現実がある。下層の労働者人民の怒りは、トランプ政権に集中した。
 コロナ感染拡大状況の中で、トランプ政権が進めてきた排外主義と新自由主義の本質が鮮明になっていたのだ。
 トランプが全米の抗議行動に対して軍隊の出動を主張し続けたことは、米国の階級支配の危機を如実に表わしている。政権内部・共和党内部からの批判、前国防長官マティス、元国務長官パウエルなどの厳しい批判にあって、トランプは軍隊を現在までには出動させてはいない。
 しかし、抗議行動に対抗して軍を出動させるというトランプの判断は、トランプ自身が白人至上主義者の側に立ち、同時に経済格差を拡大してきたブルジョアジーとして、抱いた恐怖ゆえである。国内支配体制が揺らぎ始めたからこそ、階級闘争の急激な発展に恐怖したのである。ホワイトハウスに迫る抗議のデモに対して、暴力で圧殺することしか、トランプは思いつかなかった。
 大統領選に向けてトランプは支持者集会を強行しているが、トランプの支持率は急落している。
 四年前トランプが米大統領に選出されて以降、トランプは前オバマ政権を批判し続け、国民皆保険を否定し、中国との貿易戦争を開始し、シリアへの挑発的な軍事攻撃、イランに対する国家的暗殺攻撃を強行し、さらにはエルサレムの首都としての承認などイスラエル擁護の外交を全面化して、保守層、排外主義者の支持を確保してきた。〇八年恐慌以来の自動車産業をはじめとする製造業の落ち込みを、自国第一主義の排外主義煽動を強めることで、自らの支持へと集約してきた。
 しかし、それは対外的にも、国内的にも分断と対立を煽り、その実態においては新自由主義政策をより強めて経済格差を拡大してきたのである。
 トランプ政権のコロナ対策の失敗は、多くの人民を疾病の苦しみと病死の恐怖に陥れただけではない。皆保険のない、つまり、国家が人民の医療の最低限を保障することができない、野蛮な米国行政の実態を露呈させてしまった。米帝国主義が直面した経済危機は、株価の暴落や原油価格の暴落などという表面の問題ではない。新自由主義政策を徹底的に進めてきた米国であるがゆえに、下層労働者は失業し所得を失い、日々の食物を入手することに困窮する事態に直面している。正規か非正規かの格差の問題、そして、黒人、ヒスパニックをはじめとして人種間、民族間の分断、差別の問題、トランプ政権が拡大した矛盾が、一挙に噴出している。労働者人民がそれにはっきりと気づき、行動に立ち上がっている。
 コロナ禍において、これまでの社会で進められていたことが極端な形で現れ始めて、虐げられた人々が差別、抑圧、格差の実態を目の当たりにした。米帝―トランプ政権、日帝―安倍政権の現状は、まさに統治能力の限界を露呈したものである。
 日本においては本年のコロナ感染拡大の中で、安倍政権の失政、腐敗した利権政治、独裁的な改憲への策動が次々に露呈してきた。コロナ禍で大規模なデモができない状況下で、検察庁法改悪を強行しようとした安倍政権に、労働者人民は憤るとともに、驚愕した。人民の生命、生活を守るための政策とは全く異なる、自らの権力護持と利権確保に奔走する安倍独裁に対して、支持率の急落する事態となった。森友事件も、河井克行・案里の公職選挙法違反も、最大の責任は安倍政権そのものにあると、人民は見ている。命と生活がかかった日々の中で、今まで黙っていた人々が、政治を凝視している。もう人民をだますことはできない。
 七四―七五年恐慌以降、一超大国米帝としての世界的な覇権は掘り崩されてきた。中心国―米帝が、G7もG20も組織できない。まさに、中心国として世界を編成する力を喪失した現実がある。
 今現出している事態は、支配階級にとってさらに深刻である。トランプ政権は米国内の統治すら困難になっている。愛国的に国民の団結を組織するか、利権をばら撒くか、あるいは警察力・軍事力によって恐怖政治を敷くか、トランプ政権が発足以来試みてきた、さまざまな階級支配の手法が全て破産した。まさに、ヘゲモニーの喪失である。




 

 

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