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   ■福島原発事故から一〇年

 被災住民に連帯し全原発を廃炉に

 「復興オリンピック」を許すな

                 
大西勇二
         
                          

  
  

 まもなく東日本大震災と世界最悪となった福島第一原発事故から一〇年が経とうとしている。コロナ感染が日を追って拡大し、すでに五〇〇〇人を超える方が亡くなっている。再び「人災」が繰り返されているのだ。無為無策の自公政権を打倒しなければならない。原発事故の再発によってこれ以上労働者人民の命と生活を奪われてはならない。コロナ禍で迎える原発事故一〇年目にあたり、全原発廃炉へむけて新たな闘いを踏み出そうではないか(福島第一原発を巡る詳しい状況や喫緊の課題である老朽原発については、別途掲載予定である)。

 ●1章 全国の原発の状況

 世界最悪の事故を起こした福島第一原発事故が発生した当時、日本の原発は五四基。世界第三位の原発大国だった。しかし、事故から今日まで再稼働したのは九原発。二一基の廃炉が決まり、二四基が止まったままだ。川内1号機が初めて再稼働したのは二〇一五年八月。再稼働は、一八年六月の九州電力玄海4号機の後、二年半以上が経過する。今も一一基で審査が続くがほとんどは申請から五年以上たつ。地震の想定や活断層の有無などの判断が難しいものばかりで、終わりが見えないのが現実だ。審査を申請せず廃炉も決めていない原発も九基ある。また、この間の裁判での運転停止命令や定期点検、事故による工事の遅れなどで高浜や伊方では再稼働後も運転したのは約半分程度である。
 政府、電力会社、規制委員会は、原発再稼働に対して抵抗の強い東日本を周到に避けて西日本の川内、玄海、伊方などから再稼働を進め、原発を多く抱え経営状況の悪化をたどる関西電力の大飯や高浜の再稼働を優先してきた。そして、一〇年が経過する中で次なる再稼働として、被災した女川原発と四〇年超えした老朽化原発、さらに東京電力の柏崎刈羽原発の再稼働を狙っているのである。その後も再稼働と世論の動向を見ながら建設中を含む新規原発を建設する戦略を立てて準備を進めているのだ。もう少し詳しくみてみよう。
 再稼働阻止にむけて緊急かつ重要な課題は、四〇年を超える老朽原発の再稼働を巡る問題だ。規制委員会が審査承認した四〇年超の老朽原発は、四基ある。高浜1号機四六年、2号機四五年、美浜3号機四四年、東海第二原発四二年である。規制委員会は、四〇年超運転の審査では認可を期限内に合わせるために優先的審査などを行い、ぎりぎりで審査を認可している。
 関西電力の高浜と美浜では、昨年一一月と一二月に地元高浜町と美浜町の議会が再稼働に同意。二月一日には、高浜町長の野瀬が同意を表明した。しかし、県レベルでの合意を巡っては関電による使用済み核燃料の県外搬出先の年内提示が同意の前提となっていたが、昨年末までに関電は県外の搬出先を提示できなかったのだ。美浜原発では、1、2号機が廃炉となっている。関電は、高浜1、2号機に先んじて美浜3号機をまず再稼働させる工程を示しているが、金品受領問題をはじめ3号機は〇四年に蒸気噴出事故で一一人の死傷者を出すなどその安全管理を含む企業体質に地元の不信感はきわめて大きい。
 東北電力女川原発は、1号機は廃炉。3号機は未申請である。震災後に再稼働した原発はすべて加圧水型炉(PWR)で、西日本にある。2号機は福島第一原発と同じ沸騰水型炉(BWR)であり、再稼働させればBWRで初めてになる。そしてなにより震災で被災した原発の再稼働となるのだ。
 昨年一一月に宮城県知事村井が再稼働に同意。早ければ二三年頃の再稼働を狙っているのだ。しかし、国の地震調査研究推進本部によると、女川原発が面する宮城県沖は、一九二三年から二〇一一年の震災までにマグニチュード七級の地震が六~七回起きており、今後三〇年以内の発生確率は90%に達する。また、避難計画を巡っては石巻市一四万人を周辺二七自治体へ避難させるという。避難協定締結に五年かかり避難先は三〇四カ所。避難にあっては避難先に職員を派遣する必要があるという。まったく実効性のないものが避難計画とされているのだ。
 日本原子力発電(原電)が有する東海第二原発(茨城県東海村)では、一九年二月原電が再稼働を目指す方針を表明。今後は県と六市村との協議へと移行し来年一二月に安全対策工事を完了予定としている。しかし、地元東海村と周辺五市による「茨城方式」といわれる地元協議において、昨年二月に示した書類に、再稼働時期を二二年一二月と明記していたことが分かった。これは安全対策工事の終了と同時期にあたり、六市村は「容認できない」と反発。「安全対策工事の完了に合わせて再稼働の判断を迫られる筋合いはない。判断がいつになるかは未定」(高橋靖・水戸市長)としており、「なし崩し的に事を進めてしまうことになりかねない」と反発する声が出ている。
 柏崎苅羽6、7号機再稼働は、福島第一、第二原発の一〇基すべてを廃炉せざるをえない東京電力ホールディングス(HD)にとってはなんとしても早急にこぎつけたい課題だ。しかし、福島第一原発の廃炉の目途も経たず、旧経営陣の責任もまったく不問のまま誰も責任を取らない中で東京電力HDに原発を運転する資格などそもそもない。東電は、再稼働の目的を「福島第一原発の廃炉に必要な資金確保」だと言い放つ。東電が再稼働を急ぐのは火力発電で使う石炭や天然ガスなどの化石燃料費を浮かせて年間九〇〇億円ほどの収益改善を見込むからに他ならない。また、地元合意を巡っては原発がある刈羽村の品田村長は昨年一一月の選挙で六選を果たし、再稼働容認の意向を示している。「条件付き再稼働容認派」の柏崎市の桜井市長も同日の市長選で再選し、東電には「追い風」となっている。一八年の新潟知事選挙で米山氏に代わって知事となった現職の花角は自民・公明両党の支持で当選した保守派で、国と東電は知事の任期切れの一年ほど前にあたる今年六月までに同意を得るのが絶好のチャンスとしているのだ。
 老朽原発再稼働を突破口に、女川、柏崎苅羽原発の再稼働で次のステップへと突き進もうとする国、電力会社、規制委員会の策略を許さず、全原発の停止・廃炉にむけた前進をかちとらなければならない。

 ●2章 避難者の状況

 復興庁によると昨年一二月八日現在、全国の避難者数は、約四万二〇〇〇人で、全国四七都道府県、九三八の市区町村に及び、福島県からは県外に二万九〇〇〇人の方が避難されている。また、避難区域は二〇一三年八月までに避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の三種類に再編され、昨年三月までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が解除されている。そして避難指示区域は福島県全県面積の2・4%であり、多くの地域で通常の生活が可能としているが、その面積は未だ東京都二三区の約半分に及ぶ広大なものである。さらに、帰還困難区域内に避難指示を解除し、居住を可能とする「特定復興再生拠点区域」を定めることが可能となったが、面積にすると帰還困難区域全体の8%程度にすぎず駅周辺や主要道路沿いなどいかにも復興が進んでいるかのごとく装うための施策が進められているのである。
 昨年三月段階で避難解除された区域での居住率は、28%強。帰還困難地域の住民約二万二〇〇〇人以上が未だふるさとに戻れない状況となっているのだ。帰還困難地域では今もって除染作業は進まず、帰還することをあきらめざるを得ない人々が増えてきている。帰ることができないまま避難先で亡くなる方も年々増えている。また、避難が解除されたのだから帰還しないのは自己責任だとして住宅支援が打ち切られるなど被災者切り捨てが一層過酷なものとなっているのである。しかし、解除された地域もまだまだ汚染濃度の高いところが至るところにあり、安心して帰還できる状況ではないのである。
 そして、深刻さを増しているのが避難先での生活において被災者たちが社会的、経済的、精神的に追いつめられている現実である。事故から九年目の昨年行われた帰還困難区域の避難住民のみを対象とした調査において、生活を再建し放射能から逃れ健康的な生活を取り戻すことができたかと思われがちな避難先において、いわれなき中傷や差別、さらには被曝による将来の健康に対する不安などからPTSDやうつなどを抱える人が多くいることが明らかとなっている。福島から避難してきただけでまわりから子供が「放射能がうつる」と言われたり、賠償金だけでは足りずに借金をして新築した家に対して「あんな立派な家が立てられるのは避難者だからだ」などと心無い中傷を受けるなど、慣れない土地である避難先での疎外感や孤立感、つらさなどを抱えこみ、これからどう生きていけばいいのか、この状況をどう乗り越えていけばいいのかといった展望の見えないまま経済的にも精神的にも追いつめられている人々が数多くいるのだ。そして、こうした状況は、一〇年が経過し子供をかかえ働く現役世代でも「自助」「自己責任」のもとに一層の重圧としてのしかかっているのである。また、昨年七月現在で震災に関連して自死された方が被災三県で二二〇名におよび、福島県では累計で一一〇名を超えている。
 これが一〇年を経過しての政府が喧伝する「復興」の実態である。そして、こうした現実を糊塗するためにコロナ感染が爆発する中においてすら開催をねらう「復興オリンピック」など絶対に認めるわけにはいかない。

 ●3章 原発裁判をめぐって

 これまでに福島第一原発事故に関係して多くの裁判が争われてきているが、大きくは三つある。
 第一は、東電刑事裁判である。一九年九月東京地裁は検察審査会の議決によって強制的に起訴された東京電力の旧経営陣三人に対して無罪の判決を言い渡した。判決は「巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない。当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを求めていなかった」と、事故原因の究明と責任の所在を明らかにしようという真剣さのかけらもない、国の原子力行政を忖度した不当極まりない判決だ。裁判は控訴されており、東電の責任を徹底して追及していかなければならない。
 第二は、原発の設置許可あるいは運転の差し止めを求める裁判などで、係争中の訴訟は三〇件。仮処分が三件となっている。福島以降の裁判においてこれまでに地裁で四件、高裁で三件の運転差し止め、設置許可変更の取消し=設置そのものを認めない判決が下されている。福島以前の原発裁判において住民側勝訴は二件。もんじゅと志賀原発を巡る裁判のみであった(最終的に両裁判は、最高裁でともに敗訴)。従来の判決基準は、伊方原発の許認可取り消し請求訴訟の最高裁判決(一九九二年一〇月)において、「原発の安全性の適否の判断は、専門的技術的な調査審議及び判断をもとにしてされた行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべき。その判断の過程に看過しがたい過誤、欠落があったかどうかで判断されるべきである」とするものだ。
 裁判所は、これを判断基準にし、ほぼ同じパターンで電力会社や国の意見を追認し勝たせてきたのだ。しかし、国、電力会社が作りあげた安全神話は木っ端微塵に葬りさられ、膨大な住民が過酷な避難生活を強いられ、経済的にも社会的にも過酷な現実に追いやられる中で、こうした最高裁の判断基準がまったく通用しなくなったのである。この間、勝利した裁判においては、基準地震動、活断層、火山さらには新基準そのものの安全性や新基準適応をめぐる規制委員会の審査そのもの、さらに立証責任に対する考え方や避難計画の実効性など、実質的審理が行われ検証されることによって判断が下されてきているのだ。これは、原発再稼働を容認しない世論や地元住民を始め弁護士、各専門家、学者、労働者、市民など全国で闘う反原発運動の成果であり、こうした闘いが再稼働を押しとどめ、一歩一歩国の原発政策を破綻へと追いつめているのだ。
 第三には、原発避難集団訴訟である。全国で約三〇件の集団訴訟があり原告は約一万二〇〇〇人に及ぶ。そしてこれまでに国が被告に含まれた裁判において地裁で国の責任を認めたもの七件。認めなかったもの七件。高裁ではそれぞれ一件ずつとなっている。東電の責任はすべてで認められている。
 賠償を巡っては、東京電力は、事故で避難を強いられた被災者への精神的損害への賠償として事故当初、毎月一〇万円を支払っていた。しかし一二年三月から、政府の避難指示による帰還困難区域の避難者へは一括払いに方針が変わり、既払い分も含めて一人一四五〇万円で賠償は終了した。居住制限区域、避難指示解除準備区域は、月額一〇万円で、避難指示解除後一年で終了。昨年三月で避難指示は解除されている。
 東電は、賠償について「三つの誓い」を掲げ、①最後の一人まで賠償の貫徹、②迅速かつきめ細かな賠償の徹底、③和解仲介案の尊重を約束し、「最後の一人が新しい生活を迎えることができるまで、被害者に寄り添い賠償を貫徹する」としていた。しかし、東電は、原子力損害賠償紛争審査会が示した賠償基準「中間指針」に沿って賠償の可否や金額を決め、指針を盾に支払いを拒む例が増加している。一月四日時点で原子力損害賠償紛争解決センターへの請求は二万六件を超え、八割は和解が成立した模様だが、この件数を見るならばいかに被災住民が損害賠償額に納得していないかを示している。そして、集団申し立てでは、東電が和解案を拒む例が目立ち、裁判闘争になっているのだ。そもそもこれまで被害者への慰謝料の金額は、原子力損害賠償法の無過失責任原則およびそれに基づいて国が定めた「中間指針」を踏まえて東電が決めてきた。加害者である国や東電が賠償の基準、すなわち対象範囲や金額を決めるという決定的問題があるのだ。
 昨年九月、集団訴訟では最大規模の「『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」(通称、生業訴訟)で仙台高裁において判決があり、高裁段階で国の法的責任が初めて認められた。国、東電は最高裁判所に上告し、なお争う構えを見せている。訴訟に参加することの難しい住民の救済水準の引き上げも含めて、国に法的責任があることを前提とした賠償基準の見直しや被害者が納得する救済制度の具体化をさらに追求しなければならない。

 ●4章 破綻する原子力政策

 いたるところで原子力政策が行き詰まり、次々と破綻があらわになってきている。
 第一は、核燃料サイクル政策である。すでに明らかになっているように高速増殖炉もんじゅは二〇一六年一二月に正式に廃炉が決定し、計画は完全に破綻した。
 第二は、もんじゅなき後、核燃サイクルを維持するには、通常の原発でプルトニウムを含むMOX燃料を燃やす「プルサーマル」に頼るしかなくなった。燃料を増やすことはできないが、もともと高速増殖炉が実現するまでの「つなぎ」と考えられていた方法だ。使用済み核燃料の再処理のため計画された六ケ所再処理工場の建設は一九九三年に始まり、すでに約二・二兆円の建設費に、さらに七〇〇〇億円を追加投入し約三兆円が投じられている。これらは電気料金に上乗せされている。完成時期が二五回目となる今回の延期で、国は今年上半期に竣工を予定しているという。これまでことあるごとにその建設費と完成時期の延期が伝えられてきたが、注目しなければならないのは再処理工場そのものの危険性である。
 通常の原発では放射性物質は主に原子炉や燃料プールなどに集中しているが、再処理工場では工程ごとに分かれた六つの建屋に分散し、それら建屋を結ぶ配管の総延長距離は約一〇〇〇キロメートルといわれ、安全上の重要施設は一万点に及び通常の原発の一〇倍になる。すでに完成している施設も動かさないまま一部はすでに古くなっており極めて危険な施設といえるのだ。
 すでに全国の原発から集まった使用済み核燃料が容量の満杯に近い二千九百トン以上が貯蔵されている。原燃によるとフル稼働すれば最大で年八〇〇トンの使用済み燃料を処理して、約七トンのプルトニウムを回収できるという。しかし、現在まで国内と英・仏の保管分と合わせてすでに四六トンのプルトニウムを保持している。これは原爆五七〇〇発分に相当する。
 溜り続けるプルトニウムをプルサーマル発電によって消費するとしているが、そのためには原発一四基から一六基が必要とされている。しかし、現在実施しているのは伊方3号機、玄海3号機、高浜3、4号機の四基だけ。消費量は足し合わせても年二トン程度にしかならない。プルトニウムは、増え続ける一方なのだ。プルサーマル発電は他に六基で計画があるが、審査や地元同意の見通しがたたないものもある。
 昨年一二月、電気事業連合会会長の池辺は、再稼働が進まない中で「プルサーマル発電」の目標について、これまで「一六~一八基」としていたものを「二〇三〇年度までに少なくとも一二基」とすると発表し、見直しを迫られた。そうした中、今年一月、伊方原発3号機から使用済みになったMOXを含む核燃料を取り出す作業が始まった。MOX燃料が使用済みになり、取り出されるのは初めてだが、その処分方法もまだ決まっておらず行き先のないまま敷地内のプールで当面保管されるのだ。
 使用済みMOX燃料については、使用済みウラン燃料より発熱量が多く、保管管理上の危険性も指摘されており、稼働中の原発の危険性も一層高くなっているのである。順次、他の原発からも使用済み燃料が搬出されてくる。使用済みMOX燃料をどう扱うか、エネルギー基本計画では無責任にも「引き続き研究開発に取り組み、検討を進める」と記すにとどまり、具体的な方針もないままプルサーマル発電を続け、危険を拡散しているのである。
 第三には、このMOX燃料加工工場の問題である。着工は二〇一〇年。当初一二年四月だった完成時期は、安全対策強化などの理由で二二年度上期に延期されていた。しかし、再び二四年度上期へと変更されている。延期は、これで七回目となる。建設費は約三九〇〇億円。ただ、先に述べた再処理工場が動かなければMOX粉末が入ってこないので操業できない。再処理工場やこの燃料工場の完成や操業はさらに遅れる可能性もある。また、プルサーマル発電で稼働しているのは現在四基だけで、今後MOX燃料の需要が大幅に伸びなければ、操業してもフル稼働も見込めない。
 福島原発事故後、一〇年が経過し国の進めてきた核燃料サイクル計画は、高速増殖炉計画が破綻し、プルサーマル計画も破綻の淵に追い込まれているのである。うまくいくかどうかもわからないまま核燃サイクル推進を掲げない限り原発が停止してしまう事態にまで追いつめられているのである。
 第四には、通常の原子力発電を続ける限り出続ける汚染廃棄物の問題だ。「トイレのないマンション」といわれ続けて五〇年近くになるにもかかわらず、この問題すら解決できていない。にもかかわらず再稼働を画策し、原発を運転し続けようというのだ。
 昨年一〇月北海道の寿都町長が「高レベル廃棄物」の地層処分地の「文献調査」を受けることを正式に表明した。続いて神恵内村も名乗りをあげたことで「高レベル廃棄物」地層処分問題が一気にクローズアップされた。昨年一一月から第一段階の「文献調査」が始まっている。これまで使用済み燃料の再処理は、国内や海外(英、仏)の工場で行われており、すでに約二五〇〇本のガラス固化体が存在している。また、これまで原子力発電で使われた燃料を全て再処理し、ガラス固化体にしたと仮定すると、その量は、すでにガラス固化体となっているものとの合計で、約二万六〇〇〇本になる(二〇年三月末時点/原子力発電環境整備機構(NUMO)による)。地層処分は、地下三〇〇メートルより深い地中に埋める計画だが、放射線量が十分に下がるには一〇万年ほどかかるといわれている。
 寿都町は、「特性マップ」によれば大部分が「好ましい」緑色に塗られている。ただ、このマップは最低限の除外条件をただ重ね合わせただけで、『適地』を示しているわけではない。そして、寿都町の中央部には何本もの活断層が走っているのだ。神恵内村は、大部分がオレンジ色に塗られている。火山の中心から一五キロの円に入るためだ。そもそも二町村がある北海道南西部は火山が多く、「好ましくない」オレンジの円が集中している地域である。
 地層処分を巡っては、プレートが沈み込む日本列島で地層処分が成り立つのかは長く論争になってきた。また、一〇万年という時間はプレートが数キロメートル動き、一五〇年に一度の巨大地震が六〇〇回以上起こるような時間ともいわれている。寿都町では地元から反対の声があがり、周辺の町村からも反対の声が上がっている。
 第五には、原発の貯蔵プールにたまり続ける使用済み核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」を巡る問題である。各原発の使用済み燃料の貯蔵量は電事連によると昨年九月末時点で約一万六〇〇〇トン。主に各社の原発の燃料プールに保管されているが、先に述べた使用済み燃料の再処理が進まず、すでに貯蔵可能量の75%に達している。関電ではこのまま再稼働が進むと六~九年程度でプールが満杯になり、再稼働したにもかかわらず順次運転できなくなるということだ。
 現在、東京電力HDと原電がむつ市に建設中の「中間貯蔵施設」は、保管の対象はこの二社の使用済み燃料のみとなっているが、昨年一二月、電事連の清水副会長がむつ市の宮下市長を訪ね、「中間貯蔵施設」について電力各社との共同利用に向けて検討に入りたいとする考えを伝えた。これに対し宮下市長は「青森県やむつ市は核のごみ捨て場ではない。中間貯蔵場所は全国で探すべきなのに、それがないまま突然『むつ市でお願いします』とはならない」と共用ありきの議論に応じないと述べた。
 これは福井県が関電に対し、高浜原発1、2号機など県内にある老朽原発の再稼働の是非を判断する前提として、昨年内に中間貯蔵施設の県外候補地を示すよう求めていたからだ。しかし、関電は昨年末までに県外候補地を示すことができず謝罪に追い込まれている。電力業界からすれば共同利用が実現すれば関電は、有力な県外候補地としてこの「中間貯蔵施設」を同県に示すことができ、再稼働に近づくというわけだ。
 さらに、他の原発敷地内にも使用済み燃料があるが、これが満杯になると原発を運転することが不可能となるためだ。政府が福島の事故後、原発の新設・建て替えができる環境ではないと新規・建て替えを認めていない現状では、動かせる原発の数が減るなか、老朽原発の扱いが今後の経営に影響しかねない。関電が先行する老朽原発再稼働を後押してその流れをつくることを狙っての動きに他ならない。この「中間貯蔵施設」問題すら解決できなければ通常の原発運転もできなくなるのだ。関電は五月までに、老朽原発である美浜3号機と高浜1、2号機の再稼働を計画していた。しかし、県から求められていた核燃料の搬出先を提示できなかったことにより、再稼働計画は事実上極めて厳しい状況に追い込まれたということができる。
 このように原発事故から一〇年が経過しても福島第一原発廃炉計画もまったく見通せない現実が突きつけられた。さらに、核燃料サイクル計画が実質的に破綻する中で原子力政策そのものの破産がいよいよ国と電力業界、原子力村といわれた全原子力推進勢力に突きつけられているのである。原子力政策を完全破綻へと追い込み、全原発廃炉にむけて全力で闘っていかなければならない。

 ●5章 地球温暖化と原発

 昨年一〇月、菅は就任後初の所信表明演説において、「二〇五〇年温室効果ガス排出量ゼロ」を表明し、一二月には「グリーン成長戦略」を発表した。五〇年の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を「参考値」として五~六割と設定しつつ、原子力の役割も明記。「確立した脱炭素技術」と位置付け、「可能な限り依存度を低減しつつも引き続き最大限活用」「再稼働を進めるとともに安全性に優れた次世代炉を開発」するとした。これを機に自民党内の原発推進派の議員連中が「CO2を出さない原発が不可欠だ」と反原発世論の転換にむけて動きを強めてきている。現在、菅は新増設は「現時点では考えていない」と臨時国会で答弁しており、原発推進派は今年改定される国の「エネルギー基本計画」に、原発の新増設を盛り込ませることを狙っている。電力会社や原発メーカーも「これ以上、新増設があいまいなままでは経営戦略を描けない」との声をあげており、これが推進派議員の動きにつながっている。
 現在の第五次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーについて「経済的に自立した主力電源」を目指すとしたうえで、三〇年度の電源構成を再生可能エネルギーは22%から24%、原子力は20%から22%、火力は56%程度を目指すとしている。三年目の見直しにあたる今年一〇月に原発の割合を増やすことを狙っているのである。
 日本の年間CO2排出量は、約一二・九億トン(一七年/国立環境研究所調べ)。日本は、中国、アメリカ、インド、ロシアに次いで世界で五番目に排出量の多い国(一六年/国際エネルギー機関調べ)となっている。
 世界から厳しい批判にさらされ宣言を出さざるを得なくなったわけだが、こうした原発推進勢力の動きが強まる中で今後、反原発と地球温暖化阻止を結びつけるより一層強い闘いが求められる。
 エネルギーの専門家らがまとめた一九年の世界原子力産業現状報告(WNISR)によると、過去一〇年で太陽光と風力のコストは88%、69%それぞれ下がったのに対し、安全対策の強化を求められた原発は23%上がった。原発の建設には、平均約一〇年かかり、工期が遅れると建設コストはさらに上がる。化石燃料を使う火力発電と置き換わる予定なら、その間CO2排出が続き「原発はほかの手段より高く、ペースが遅い。気候非常事態への対応には効果的ではない」との指摘もある。また、世界の発電電力に占める原発の比率は二〇年以上横ばいか微減の状態だ。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が発表した「1・5度特別報告書」でも、様々なシナリオを検討しても多くの場合で五〇年の原発の割合は10%前後のままで、八割前後に増えるとする再生可能エネルギーとは対照的な報告も示されている。世界の原発の平均運転年数は三〇年を超えた。四〇年で運転終了とする場合、三〇年までに一八八基を新設しなければ、現在の発電量を維持できないという。日本では老朽化し危険の増した原発の再稼働の正当化のために地球温暖化問題が使われようとしている。
 反原発運動は地球温暖化問題をはらみつつ新たな局面へと入ってきている。ヨーロッパでは、福島原発事故以来、再生エネルギーの導入が進み社会経済構造の転換を開始している。しかし、日本では相変わらず経産省主導で電力会社、原発推進派は、再生エネルギーの拡大を阻み、地球温暖化対策を利用して原発を推進しようとしているのだ。絶対にゆるしてはならない。
 コロナ感染が拡大する中でも今もって菅は、東京オリンピックを「復興オリンピック」と称して、開催を強行しようとしている。「復興オリンピック反対」「地球温暖化阻止」をかかげてすべての原発廃炉にむけ、闘いに立ち上がろう。


 



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