共産主義者同盟(統一委員会)






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『戦旗』1654号6面

   
厚生労働白書批判

  
社会保障政策の欺瞞性を暴き
  生存権の補償を勝ち取れ

                                河原 涼




●厚生労働省白書の概要とその実態

 二〇二三年八月、厚生労働省は、基本的な社会保障政策のあり方を示す「厚生労働白書」を発表した。
 この白書は第一に、介護保険事業、障害者介護、高齢者介護事業などを市場に開放し、資本による介護サービスの提供を利用することでの契約に基づく事業の展開を制度化したものとなっている。これは、二〇〇〇年以降の小泉政権時における社会保障全般に市場の介入を促した骨太の方針を継承したものである。
 第二に、政策面においては、「つながり、支え合い」と称した「互助」のあり方を前面に押し出したり、地域包括支援センターを通して「在宅介護のサービスの充実」などを標榜し、「自助」を促進するなど、「利用者のニーズに合わせたサービスの充実」などを掲げている。しかし、実はそれは、資本の提供するサービスという名の「商品」の品揃えを言い換えただけであって、具体的には国家政策としての社会保障政策を、細部にわたって地方自治体、とりわけ市町村の事業へと丸投げしたものである。
 あらゆる政策の実施を究極には「自助」に責任を押しつけ、社会保障の国家的使命、社会的使命を事実上放棄したものである。地方行政は、財政基盤とする税収が地方ごとにバラバラであるが故に、同じサービスでありながら、地域によって格差が必然化する。「自助」に至っては、出身地や、年収、家族構成、様々な属性によって、社会保障の内容上の格差が広がる。
 第三に、そのことは、同時に障害者福祉政策、高齢者福祉政策、生活困窮者に対する社会保障政策などに反映されている通り、様々な政策が資本の論理の中で展開されるが故に、現実の具体的な政策は、実際に生活する社会的弱者の側に寄り添ったものでは決してないことを露わにしている。
 生活保護引き下げの事実、生活保護費を分割し、毎日一〇〇〇円しか支給しない行政、あるいは、外国人生活困窮者に対する生活保護申請を認めない判決、福祉事業会社「恵」による障害者施設での食材費の過大徴収、身体的虐待の横行、後期高齢者の医療保険負担の引き上げなど、格差を拡大させるためにのみ社会的弱者への負担強制がなされている。
 排外主義を前面に押し出し、外国人が生活に困窮しても、「外国人お断り」という看板を堂々と掲げて、労働者人民が生きることそのものに敵対すらするものとして制度が行われているのである。「人民が生きようが死のうが関係ない」という態度を露骨に示しているのだ。
 特に現在、自民党のパーティ券購入をめぐる政治資金規制法違反がこれほどまでに横行している。自分たちは法務省、検察庁を抱き込んで身の安全を確保しつつ、労働者人民に対しては、生き死にを嘲笑うかのように露骨な差別対応を公然化してきた日帝の政治姿勢が露わになっている。
 その腐敗したあり方が厚生労働官僚による議員への忖度によって文章化されたものが、かの厚生労働白書である。白書に書かれてある無内容な言説は、現実の労働者人民の生活の困窮の深刻さとのずれに一層拍車がかかっている。労働者人民の生活格差の拡大を浮き彫りにしている。

①震災下での生存権

 しかも、今回の能登半島地震で震度7の凄まじい揺れでほとんどの建物が被害に遭ったが、孤立を強いられた珠洲市には、かつて北陸電力による原発誘致が盛んに行われ、多くの住民が切り崩しにあいながらも、二八年間の闘いによって原発建設が凍結された経緯がある。当時もし仮に「珠洲原発」誘致が強行されていたら、計り知れない被害が起こっていただろう。関東地域のみならず、日本列島そのものが「死の列島」と化していたかもしれない。それは現実的なものである。今回の地震では、地震発生後、能登の海は海底がごっそり見えるほど潮が沖に引き、テレビのアナウンサーは発生直後に「あと一分で津波が来ます」と叫んだ。海岸の地盤は約四メートルも隆起した。漁業は壊滅的な被害である。志賀原発は、実は志賀町で震度6以上を記録していた為、国の定める緊急事態区分の、「警戒事態」にあたると規制庁は判断していた。情報の周知や避難の準備が求められたが、初動体制から何も進まず、現在に至る。
 震災での障害者、高齢者、外国人に対する避難誘導、避難のあり方に対する行政の立ち遅れが浮き彫りになっている。
 震災に対する被害想定の甘さもさることながら、企業の誘致に躍起で、防災危機管理など全く想定していなかった。
 能登半島地震後も、障害者、高齢者の孤立化は、想定を遥かに超えるものになった。当初より一般の避難所での生活が困難な人々が暮らす福祉避難所の立ち上げが、全く目処が立たず、実態の把握が困難を極めている。輪島市の場合、一般の避難所で生活するのが困難な障害者や高齢者を受け入れる福祉避難所は、市内で事前に二五カ所指定されていたが、一月七日時点ではゼロである。市内の障害者支援施設で自主的に受け入れているが、職員の数が圧倒的に少ない。
 被災後の心身の負担が原因でなくなる「災害関連死」のうち、発生時に障害者手帳を持っていた人の割合が、東日本震災で21%、熊本地震で28%であったことがわかった。人口の9%が障害者であると言われる中で、高リスクな現実があるのだ。矛盾が一気におしかかることを絶対に許してはならない。
 資本の求めに従順にして人民の生活を顧みず、社会保障をおざなりにしてきたつけが、能登半島地震の被害の甚大さに大きくあらわれている。

②現実を隠す白書

 厚生労働白書には、こう記載されている。
 「我が国の社会保障制度は、ライフステージの各段階において典型的と考えられる不確実性に対し、各リスクの「分野別」に制度を創設し運用してきた。これにより国民生活の安定と安心に大きく寄与してきたことは間違いないが、しかし、現在は……多様化、複雑化した課題が顕在化している」。
 「今回の厚生労働白書第一部は、『つながり・支え合いのある地域共生社会』と題し、全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会の実現に向けた展望を論じることとした」。
 「障害者福祉においても、高齢者福祉と同様、サービス提供が行政処分によって決められる 措置制度が長く続いてきた。しかし、……二〇〇〇年五月に成立した『社会 福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律』の中で、……措置制度を改め、利用者が事業者と対等な関係に基づきサービスを選択肢する利用方式を導入した。」
 われわれは、白書に記されているこうした言説が、労働者人民の過酷で悲惨な現実を覆い隠し、現実の階級闘争の必然性をおおい隠そうとするものであることを徹底して暴露しなければならない。あらゆる取り組みを暴露し、階級的怒りを本格的に組織していかなければならない。


●差別の激化、生活困窮の現実を打ち破れ

①福祉施設での架空請求

 障害者向けグループホーム(GH)で食材費を過大徴収していた大手運営会社「恵(めぐみ)」(本社・東京都)が運営する複数の社会福祉施設や事業所で、虚偽記録に基づいて実際よりも多くの診療報酬や障害福祉サービス等報酬を受給していた疑いがあることがわかった。
 元職員らから「行ってもいないのに訪問看護を週三回行ったことにしている」といった架空請求の告発が名古屋市に寄せられた。
 移動支援と訪問看護という別々のサービスを同一人物に対して同じ時間帯に提供したとする記録や、訪問看護の時間帯が実態と異なる記録が確認された。

②生活保護費日割り支給

 群馬県桐生市が生活保護費を日割りや週割りの分割で支給した上、一カ月の合計支給金額が決定額に届いていなかった問題が明らかになっている。二〇二二年度と二三年度の二年間で分割にされた人は計一〇人で、そのうち日割りが新たにもう一人判明し二人だったことが分かったという。
 分割にされた人は一〇人で、二二年度、二三年度で五人ずつ。七人が週割りで、日割りが二人、月二回の分割が一人だった。

③相模原市が人権条例案を公表

 相模原市が二〇二三年度中の制定を目指す「人権尊重のまちづくり条例(案)」の骨子が公表され、市は一月九日までパブリックコメントを実施していた。骨子には市人権施策審議会が三年半かけて作成した答申内容が反映されていないとして、市民団体などから抗議や修正を求める声が相次いでいる。
 有識者らによる相模原市の人権施策審議会の答申は国籍や障害、性的指向など幅広い差別禁止事由を盛り込んでいたが、市の骨子は対象を外国ルーツの人々に絞り、答申が求めていた救済機関や罰則も見送った。
 日本は、国連の人権機関から繰り返し包括的差別禁止法を制定するよう勧告を受けながら、いまだ実現していない。
 答申では差別的言動の禁止対象を「人種、民族、国籍、障害、性的指向、性自認、出身」を理由とするよう求め、著しく悪質な行為を罰則対象とする点に特色があった。しかし答申を受けて市が一一月に公表した骨子は、ヘイトスピーチ解消法にならって本邦外出身者に対象を限り、差別的言動があれば勧告、命令を発し、従わない場合は氏名公表の措置までとした。「表現の自由」への配慮を理由に罰則は設けなかった。

④「外国人にも生活保護を」ガーナ人男性の訴え退ける千葉地裁判決

 外国籍を理由に千葉市が生活保護の申請を却下したのは違法だとして、市内に住むガーナ国籍のシアウ・ジョンソン・クワクさん(三三)が市に却下決定の取り消しを求めた訴訟で、千葉地裁は一月一六日、原告側の請求を退ける判決を言い渡した。
 原告は、一九五四年に旧厚生省が「生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取り扱いに準じて必要と認める保護を行う」とした通知を踏まえ、生活保護法に規定する「国民」には、国内に住む外国人も含まれると主張。市が生活保護申請を却下した処分の取り消しを求めた。
 生活保護が認められなくても、行政措置としての生活保護が認められるべきだとも訴えた。
 岡山裁判長は判決で、生活に困窮する外国人は生活保護法が適用されず、法律に基づく受給権がないとした。
 行政措置による生活保護については、特別永住者証明書などを持つ外国人を対象としており、在留資格があるすべての外国人で、生活に困窮している人を対象にするわけではない、との判断を示した。

 障害者福祉事業、高齢者福祉事業、その他生活困窮者の全ての人民に対して、おしなべて理不尽な現実を突きつける日帝の社会保障政策を徹底して暴露弾劾し、日帝打倒を実現しよう!

 



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