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■『戦旗』1675号(3月5日)4-5面

  
 
性売買の現状と再開発、
 
正当化される強制退去に抵抗する
          
             
    掲載元:イシュペイパー2024年10月31日
   書き手:ヨルム(性労働者解放運動紅色連帯チャチャ)




 二〇一九年六月二一日、仁川のイエローハウス(訳注①)の四戸の家の前に巨大なショベルカーが突進した。ショベルカーが四戸の家を撤去しようとする瞬間、イエローハウスのセックスワーカー数名が身を張ってそれを阻止しようとした。混乱の最中、地域住宅組合の組合長が四戸の家の窓ガラスをハンマーで叩き割り、四戸の家の中にいたセックスワーカーの脚にガラス片が突き刺さった。崇義一区域地域住宅組合(訳注②)はイエローハウスのセックスワーカーたちを追い出し、再開発に拍車をかけようとしていた。

性売買特別法(訳注③)と再開発

 二〇〇四年、政府は女性部(訳注④)、警察庁など計一六個の関係機関が参与した「性売買防止のための総合対策」を策定し、「売春街の段階的廃止・整備」と「売春街自活支援事業」の推進を開始した。こうして、売春街の整備を目的として、自治体と民間がともに行う都市再開発事業が着手された。二〇〇二年に「都市及び住居環境整備法」が制定され、以降、政府の政策的支援のもとで再開発事業が活性化されてきた。
 「性売買防止のための総合対策」は、売春街閉鎖政策、そして「都市環境事業(再開発)」の隠れた協力者になった。老朽化した住居環境を改善し、住民の生活の質を向上させるという名目で、女性の人権蹂躙が激化し、売春街の閉鎖が加速された。売春街の近隣住民にとって売春街は嫌悪の対象であり、住民たちは売春街をなくせば地域環境が改善され、家の資産価値が上がるという期待を持っていた。〝女性運動〟の性売買根絶意欲と、官民一体となった再開発への意志、住民たちの不動産利益への欲望が売春街に矛先を向けたのだ。

売春街再開発の始まり

 ニュータウンの開発が活性化され、大規模な売春街を含んだ巨大開発プロジェクトがつくられた。特に、彌阿里、龍山駅、千戸洞、淸涼里、永登浦などの売春街は、ニュータウン地区や均衡発展促進地区として選定され、開発計画が作成された。都心に近い売春街の大部分は流動人口が多い地下鉄駅の近くに位置し、数十年間開発が停滞していた土地、即ち、開発者の側にしてみれば莫大な開発利益の可能性があると評価される「おいしい」土地だった。自治体の売春街閉鎖事業と民間の開発プロセスを経て、全国の売春街の数は大幅に減った。女性家族部(二〇〇五年に女性部から改編)によれば、全国の売春街は二〇〇二年に六九か所、性売買特別法が制定された二〇〇四年には三五か所に減った。二〇二四年在、売春街は一四か所しか残っていない。

セックスワーカーたちへの移住補償対策問題と現実

 売春街閉鎖が進められるなか、数多の争点が浮上したが、そのうちの一つはセックスワーカーのための移住補償対策だ。通常、再開発事業は移住補償対策がつくのが当たり前である。しかし、売春街再開発事業の主体である自治体や民間再開発組合はセックスワーカーの移住補償対策を全く考慮しなかった。現行法上、セックスワーカーの移住を保障する法的根拠と補償基準がないことがその理由だ。売春街で暮らしているセックスワーカーたちは実質的には住人だが、その地位を認定されずにいる。この現実を端的に見せてくれたのが、二〇二〇年のイエローハウス明け渡し訴訟の判決だ。崇義一区域地域住宅組合は、イエローハウス四戸のセックスワーカーたちを強制退去させる明け渡し訴訟に訴えて出た。これに対し、四戸のセックスワーカーたちは賃貸人として法的保護を受けるために、約八年の間、家賃及び公課金を支出した帳簿を提出し、実質的な居住者である証明を行った。しかし、仁川地裁は実居住者であることを認定しながらも、「本件における賃貸借契約は、性売買斡旋などの行為と性売買そのものを目的とする法的行為として、その反社会秩序的な動機が貸主側に知られたケースに該当し、賃貸借契約は無効だとみるのが正しい」という判断を下し、該当賃貸借契約は無効であるとする判決が下った。賃貸借契約が無効化されれば、たとえ納税者であっても法的保護を受けることができず、即時退去しなければならない危機に置かれる。風俗店を運営した業者と家主は補償金をたっぷり受け取ったが、数十年間骨身を惜しんで働いたセックスワーカーたちは違法行為に加担したという理由で賃貸人の地位さえも認定されないのが現実である。

淸涼里五八八とイエローハウス再開発

 民間再開発が進められた淸凉里五八八の場合、淸凉里四区域一帯が整備区域として指定された一九九六年以前から居住していた住民だけが法的移住補償金の対象者となり、大部分の住民は補償金を受け取ることができなかった。組合が支給したセックスワーカーの分の補償金を横取りする業者さえいた。匿名のセックスワーカーは、「一〇年もの間、家族のように過ごした業者たちが(再開発)推進委員会所属となり、女性たちの分として支給された補償金を全てかっさらって無一文で追い出した」とマスコミに訴えた。淸凉里が閉鎖された後、セックスワーカーたちは永登浦、東豆川、ヨンジュコルなどに分散した。
 一方で、仁川の大多数のイエローハウスのセックスワーカーたちは、正当な移住補償対策もないまま、追い出された。組合は、家主たちに補償金を全て支給したが、セックスワーカーには移住のための補償金を渡す義務がないとして、撤去を強行した。しかし、仁川のイエローハウスは特例的にセックスワーカーたちが最後まで闘い抜き、組合から移住補償対策を引き出した。しかし、イエローハウス四戸の特別な事例を除外すれば、現在まで、売春街再開発においてセックスワーカーたちに正当な移住補償金が支給された事例は殆どない。

性売買被害者自活条例支援の限界

 各自治体は、「性売買被害者自活条例支援」(以下、条例支援)を施行しているが、これでは十分な移住補償対策を行うことができない。条例支援は移住補償対策とは別個の概念でつくられたものであり、「性売買被害者」たちの「社会復帰」が目的である。ないよりはマシだという見解もあるが、セックスワークをしながら食べていかなければならない現実のなかで、セックスワーカーへの条例支援は欺瞞的な支援に過ぎない。まず、生活費支援金額がとてつもなく少ないことが問題だ。条例支援において、生活費支援には「月一〇〇万ウォン規則」がある。二〇一六年に施行された大邱チャガルマダン条例支援の生活費は月一〇〇万ウォンであり、二〇一七年に施行された牙山チャンマ町の条例支援の生活費も同じく月一〇〇万ウォンだった。二〇一八年に施行された仁川のイエローハウス条例支援もまた月一〇〇万ウォンの支給であり、二〇二一年の水原駅条例支援も月一〇〇万ウォンだった。二〇二三年に施行されたヨンジュコル条例支援もおなじく月一〇〇万ウォンだ。条例支援は生活費以外にも住居費、医療費、職業教育が提供されるが、それでもセックスワーカーたちは条例支援だけでは脱セックスワークが大変だと話す。条例支援の金額には、物価上昇率が全く反映されていない。約八年もの間、「月一〇〇万ウォン規則」はそのままだ。その上、支援期間が短い。最大二年しかセックスワーカーには支援されない。売春街の特性上、数年から数十年までセックスワークに従事し、離職が難しい労働者が大部分であることを勘案すれば、あまりにも短く不十分な期間だ。何よりも条例支援を制定するとき、自治体はセックスワーカーを協議のテーブルから排除する。セックスワーカーたちに何が必要なのか、条例支援をどのように制定しなければいけないのか、実質的に何が助けになるのかさえ訊かず、既存の条例を参考にして、殆どそのままコピペするだけである。そうしておきながら、性売買取り締まりと強制撤去を推進し、「条例支援をつくったから、さあ出て行け」という態度を見せる。セックスワーカーが自治体に条例支援と別個に移住補償を求めると「条例支援を受けたら良い」と応え、市長に面談を要求すれば「犯罪者とは対話しない」という返事が返ってくる。自治体が「性売買被害者」としてしかセックスワーカーを規定しない観点も誤っているが、事実、セックスワーカーは本当に支援が必要な「被害者」としての待遇さえ受けたことがない。二〇年を超える長期に亘って、自治体の売春街閉鎖と条例支援政策において、たったの一度もセックスワーカーたちは尊重されなかった。

ヨンジュコル売春街強制閉鎖とセックスワーカーの闘争

 二〇二三年一月、キム・キョンイル市長は売春街強制閉鎖を宣言し、坡州警察署、坡州消防署とタスクフォース(訳注⑤:通常の組織内で行う仕事とは別に、緊急性の高い特定の課題を達成するため一時的に設置される組織のこと。)を編成した。当時、坡州市は「一切の妥協なく、年内に閉鎖手続きを終らせる」、「必要であれば行政代執行(強制撤去)も辞さないつもり」と明言していた。坡州市は、性売買被害者自活条例支援をつくる前から、警察による強力な摘発を開始しており、セックスワーカーたちを先に追い出していた。いかなる支援も受けられず、摘発に負けて、強制的に移住させられたセックスワーカーたちがいる。二〇二三年五月、記者会見においてヨンジュコルの女性従事者の会「白樺の会」のひとりは泣きながら訴えた。
 「ここの存在だけで市民たちに不便をおかけしていると思います。申し訳ございません。しかし、私たち従事者たちの生活と置かれている立場を少しでも考えてくだされば、と思います。何よりも、強制閉鎖ではなく、自立するための時間をください」。
 二〇二三年八月、白樺の会の三名は坡州市長に会って面談の場を持ち、三年の猶予期間と移住補償対策を要求した。坡州市長は、「三年の猶予期間は全く考えていない。三年後に選挙があるかもしれず、どうなるかわからない。」と言いながら、白樺の会が準備して来た面談用書面を捨てて、席を立った。二〇二三年一一月、ヨンジュコルに行政代執行が入って来た。ヨンジュコルのセックスワーカーの家と職場を強制撤去するため、雇われヤクザ、市庁の職員、警察をはじめとして、約三〇〇名余りが一群となって突入して来た。雇われヤクザを動員した暴力的な撤去過程において、ヨンジュコルのセックスワーカー一名が倒れ、救急車で運ばれた。二〇二三年一二月、ヨンジュコル内部に性売買摘発用CCTV(訳注⑥:監視カメラのこと)。の設置が試みられ、零下一六度のなか、セックスワーカーたちはパジャマ姿で飛び出してそれを阻止した。二〇二四年一月、再度CCTV設置の試みがあり、ヨンジュコルのセックスワーカーが零下六度のもと電信柱に攀じ登り、高空での籠城闘争を行った。二〇二四年三月、性売買摘発用CCTV設置の試みとヨンジュコルのフェンス撤去のために雇われヤクザが入って来た。セックスワーカーたちはもう一度電信柱の上に登り、雇われヤクザと対峙して闘った。この過程においても一名のセックスワーカーが救急車で搬送された。二〇二四年四月、売春街閉鎖タスクフォースのチーム長が通る際に、白樺の会の代表をはじめとした「チャチャ」の連帯者たちが地面に文字通り跪いて、面会を要求した。そのうちの二名が公務執行妨害罪で起訴された。二〇二四年五月から六月、坡州市は雇われヤクザと警察の約五〇名を投入して、ヨンジュコルのセックスワーカーたちが生活している四二戸の強制撤去を行い、一週間の間に一挙に摘発を強行し、女性たちを散々に苦しめた。警察は顧客を装ってスパイ捜査を行い、性売買処罰法違反として処罰を受けさせられる女性たちも生まれた。二〇二四年一〇月、四戸が強制撤去され、一一月にはより多くの家の強制撤去が予定されている。

セックスワークの非犯罪化:セックスワーカーの権利と生存のための切実な要求

 売春街強制閉鎖と再開発は、二〇年前の二〇〇四年に制定された性売買特別法の助力がなければ不可能だった。セックスワーカーたちを犯罪者として規定するこの法律が、何の補償も受けられないままセックスワーカーたちを自身の家から追い出す蛮行の根拠となっている。今日も、明日も、数多のセックスワーカーたちが、売春街が撤去され、追い出され、拘束され、処罰を受けている。「移住補償対策が必要だ」と声を上げても、「違法」な仕事をしているという理由で無視される。再開発組合と自治体は、セックスワーカーへの社会的なスティグマをむしろ積極的に活用している。「犯罪者」たちに何の補償か、犯罪者たちなのだから条例支援が受けられるだけでもありがたく思え、という態度を見せる。一方で、一般の大衆は、自分たちの血税でセックスワーカーを支援するな、と罵詈雑言を浴びせる。セックスワーカーと苦楽を共にして来た業者たちは再開発組合に入り、セックスワーカーたちの家の前に「性売買は不法」だとスプレーで落書きし、性売買取り締まり要求のための集会を開いている。納税者としての権利を要求しても、社会的スティグマのために賃貸借契約を締結することさえ難しく、契約できても性売買と関連した賃貸借契約だから、と法的に無効化される。政策決定のプロセスにおいて、法を犯しているセックスワーカーを尊重する必要はない。国家にセックスワーカーの権利を保障する責任はない。セックスワーカーたちは住んでいた家と職を一度に失い、同僚たちと別れ、警察に逮捕され、処罰を受ける。だがそれは、性売買を根絶するために必ず経なければならない過程である……果たして本当にそうだろうか? 売春街の数は減ったが、セックスワーカーの生活は去る二〇年もの間、結局良くなってはいない。セックスワーカーにも権利が認められる世界、セックスワークの非犯罪化を強く要求する。

訳注
①:仁川港にあった売春業者たちが一九六〇年に仁川広域市ミチュホル区崇義洞三六〇番地一帯に移転し形成された売春街である。米軍があまり使わなかった黄色いペイントを得て家の外壁に塗装していたため、イエローハウスと呼ばれる。
②:韓国では再開発事業において同一地域範囲に居住する住民が住宅及び集合住宅を建設するために地域住宅組合を設立し、直接事業施行の主体(組合員)になり、再開発事業を進行する。
③:二〇〇四年に制定された「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」と「性売買防止及び被害者保護等に関する法律」の二つを合わせ、通常「性売買特別法」と呼ぶ。「性売買」を「根絶」する目的でつくられた同法は、買売春そのものを違法とし、「買った」「売った」側双方を罰する。あくまで「売った」女性は「救済」の対象という建前はある。しかし現実的には「犯罪者」としてしか扱われず、「」としてのスティグマを負わされている。これらの状況から、「北欧モデル」と実質的には似通っているという指摘もある。
④:部=日本での省に当たる。
⑤:通常の組織内で行う仕事とは別に、緊急性の高い特定の課題を達成するため一時的に設置される組織のこと。
⑥:監視カメラのこと。


 


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