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 ■米軍再編反対の闘いをさらに前進させよう! 

 米軍再編促進法案を打ち砕き、安倍政権打倒へと突き進もう

 

●1 米軍再編促進特措法を廃案に追い込もう

 米軍再編のための『日米ロードマップ』合意・公表から九カ月、これを受けた「五・三〇閣議決定」から八カ月が経過した。このかん、「『ロードマップ』の着実な実施」ということを合言葉にして、政府は何よりも、米軍再編の対象となる日米軍事施設を抱える地元への説明と合意の取り付けを最優先として動いてきた。他方、米軍は『ロードマップ』に記載された諸事項を強引な姿勢で実施に移し始めた。青森県つがる市・陸自車力分屯地への]バンドレーダー強行配備、「合意」直後の嘉手納基地へのパトリオットミサイルPAC3の強行配備などがそれである。あるいは『ロードマップ』記載事項すら超え出て嘉手納への新型ステルス戦闘機F22のローテーション配備強行を行っている。さらに、『ロードマップ』合意事項とは別であるが、横須賀への米原子力空母「ジョージ・ワシントン」来夏配備についても、横須賀市民大多数の反対意思を踏みにじりながら進めつつある。

 とはいえ、米軍の再編計画実行へむけた動きと、それを追認するばかりの政府―防衛省・防衛施設庁の姿勢がそれぞれの地元において矛盾や民衆の怒りを倍化させつつ進行しているのも事実である。政府の語った「負担軽減」などは全くのウソであり、日米の軍事力強化でしかない、ということはいまや嘉手納岸周辺住民のみならず全沖縄民衆の共通のものとなっている。一連の米軍再編協議過程について、地元への説明は全くなされずに最終的な合意へと至ったことや、合意以後現在に至るも、およそ具体的な説明すら政府はできない、ということも根底的な要因である。小泉政権の下でいわば強引に合意へと至りつつ、それに関連する諸措置(法制度的、予算的裏づけなど)は次期安倍政権へと先送りされてきたこの米軍再編計画の「つけ」が、各地で噴出しているのである。そもそも国会においてすら、『日米ロードマップ』以降衆院安保委員会において2回ほどの論議しかなされていない。ほんの「入り口」の論議でこの案件をめぐる論議は中断したままだ。『日米ロードマップ』合意や「日米同盟強化」は、瞬間的に大いにメディアを騒がせはしたが、その軍事的核心をなすこの「米軍再編計画」について、なんら国会や国民的論議はなされずに今に至っている状況なのである。政府は「五・三〇閣議決定」と「安保は国の専管事項論」をもって、人民の反対を押さえ込み、「地元の合意」を取り付けることでもって、実態的な計画進行をおしはかろうとしてきたともいえるが、米軍再編関連来年度予算案の年度末成立を目前にして、その法的裏づけである米軍再編関連法案をようやく二月九日になって国会提出したという体たらくでもある。

 そのような米軍再編促進のための法案(正式名称は『駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案』。以下『米軍再編促進法案』とする)に対して、全面的な批判をただちに巻き起こさなくてはならない。

 単に日米軍事基地所在地自治体やその住民においてのみならず、全人民的な批判を巻き起こして廃案を展望することが、長期にわたる米軍再編計画を粉砕してゆくたたかいにおいてきわめて重要であり決定的ともいえる。さらに、この法案のもつ危険性は、ただ基地周辺住民にのみかかわるものではない。平和主義や地方自治などの日本国憲法の原理・原則を侵害するこの法案とのたたかいは、憲法改悪に反対するたたかいや憲法が規定する「地方自治」をいっそう拡大強化しようとする民衆的諸運動との連関・連携をもっておしすすめられることで、重大な戦争国家との総対決の一基軸をなす課題となりうる。そして、このたたかいは「アジアからの米軍総撤収を求める」アジア・太平洋地域民衆のたたかいの一翼をなすものとしても位置づけられるものである。

 

●2 総額不明、米軍基地新設への血税投入

 いま開会中の第一六六国会に提出されている米軍再編案件は二つ。来年度予算案中の「米軍再編関係経費」と、これの法的基礎として位置づけられる『駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案』である。

 まず、予算案について触れておこう(以下別表@参照)。

最初に確認しておくべきは、米軍再編といい、その推進のための閣議決定といいながら、今に至るもこの米軍再編計画に総額どれだけの費用が投入されることになるのか、その規模が不明のままであるということだ。大まかに、米軍再編計画にともなう費用は、@米海兵隊のグァムへの移転費用A基地周辺自治体への再編交付金B基地新設・部隊移駐(移転)や訓練移転の費用である。

 そのうち、@については、すでに日米間では日本が約七千億円(六十・九億ドル/一ドル=百十五円で計算・以下同じ)を支払うことで合意している。Aについても「十年間で一千億円」と報道されているところだ。

 だがしかし、Bについては何も明らかにされていない。これには辺野古崎への新基地建設費用、キャンプ座間への米第一軍団司令部の移転にともなう費用、厚木艦載機部隊の岩国移駐に関する費用などが含まれる。「返還」後の基地跡地の整備費用についても、同様だ。普天間基地の「移設」といい、岩国基地の沖合拡張後の諸施設整備と厚木艦載機部隊の移駐といい、あるいはキャンプ座間への改編司令部移駐といい、いずれもその実態からすれば明白な新基地の創出・建設といってよい。だが、辺野古崎新基地建設についてさえ費用一兆円(防衛省サイド)ともいわれてはいるなかで、いっこうに総額が明示されぬままに、来年度予算においては、「調査等」として計画が予算面での実行段階へと至ろうとしているのだ。こんなデタラメな話はない。

 そして第二に、総額約七千億のグァム移転費用支出そのものについてである。沖縄の米海兵隊がグァムに移転し「負担軽減」となるのだからその費用を日本側が一部負担するのは当然、などと政府は説明するが、冗談ではない。グァムは米国の準州である。在沖海兵隊移転の話より以前に米軍は「グァム統合軍事開発」計画を策定している。グァムを空・海・海兵部隊の集中する一大拠点としてゆく計画だが、そのための海兵隊移転なのである。まさに、沖縄および日本「本土」での米軍基地新設のための費用も日本側が支弁するだけでなく、グァムでの米軍基地新設のための費用をも日本が支弁するということだ。

 第三に、「再編関連措置の円滑化を図るための事業」名目で計上された費用の問題である。いわゆる「特別の交付金」とか「米軍再編交付金」とか言われているものであるが、すでに政府はその総額を十年間で一千億円と決め、来年度予算にその一部約五一億円を計上した。その直後から、各地の防衛施設局は『在日米軍の再編を促進するための法整備について』なる資料を作成して、各地元自治体や住民「代表」らに配布し説明にいそしんでいる。これまで「特別の交付金」をちらつかせながら「容認表明」を各首長らに迫っていたのだが、なんらの裏づけもないまま「口約束」のような話でしかなかったところに、ようやく「資料」に基づいて説明できる段階に至ったというわけだ。ところがである。「米軍再編特措法案を通常国会に提出する必要性」と題したページにおいては「○国として米軍再編に取り組む姿勢が明確となる。日米関係にとってもプラス○沖縄を含む負担軽減を早期に実現することが可能となる○米軍再編による負担を受け入れた市町村の期待に応えられる○未だ再編を受け入れていない市町村に協力を求める」としている。法案批判の箇所においても言及するが、まさに地元首長の「合意」を取り付けるための「ツリ金」がこの交付金であることを隠そうともしていない。

 では何のための「ツリ金」なのか。あくまで米軍再編というものが憲法を超え、現安保条約を超え、日米軍事一体化を際限なくおしすすめるものであるがゆえに、該当する地元住民にとっては基地被害の青天井の増大は必至である。一部は「負担軽減」になるなどということはありえない。一様の負担増大であることは明白だ。したがって、地域住民の意思が、米軍再編計画に賛成ということは永久にありえない。にもかかわらず政府は、それぞれの首長との「合意」を「住民の同意・合意」としてカウントし、地元の理解が得られたとする。それぞれの首長に対して、住民意思に背き(多くの場合は自身の選挙公約に反して)合意を取り交わすための「ツリ金」だということだ。公然たる背信の勧誘のためのカネがこの「再編交付金」なのだ。しかもそれは、「合意(容認)」を支給の第一義的な条件とするものである。岩国市長のように「これまで以上の基地強化に反対」であるがゆえに「非容認・反対」という場合は、厚木部隊移駐は粛々と進めつつ「再編交付金」はゼロ、ということなのだ。民衆の血税を恣意的かつ選別差別と排除の論理をもって分配するという専横性が許されるはずもない。

 

●3 ペテンを塗り固めた法案の「目的」

 法案の内容的な批判に移ろう(以下、別掲A参照)。

「我が国の平和及び安全の維持に資するとともに、我が国全体として防衛施設の近隣住民の負担を軽減する上で極めて重要である」と、その総体としての目的規定をおいたうえで、以下の二つを併せて「全体としての『負担軽減』の内容」を語っている。

ひとつには「駐留軍等の再編による住民の生活の安定に及ぼす影響の増加に配慮することが必要と認められる防衛施設の周辺地域における住民の生活の利便性の向上及び産業の振興並びに当該周辺地域を含む地域の一体的な発展に寄与するための特別の措置」を講ずるとある。そしてふたつに、「併せて駐留軍の使用に供する施設及び区域が集中する沖縄県の住民の負担を軽減するとの観点から特に重要な意義を有する駐留軍のアメリカ合衆国への移転を促進するための国際協力銀行の業務の特例及びこれに対する政府による財政上の措置の特例等を定め」とし、その二つをあわせて「駐留軍等の再編の円滑な実施に資することを目的とする」とある。

 それでは「我が国全体として負担軽減」ということは一体何か、ということになる。前者はもっぱら「負担増大」となるがゆえに「特別の措置」を講ずる、とされ、後者はつまるところ「沖縄海兵隊のグァム移転」のみが沖縄民衆の「負担軽減」だということとなる。従来政府は、グァム移転も含め、「本土」自衛隊基地への嘉手納基地からの「訓練移転」や厚木艦載機部隊の岩国移駐等々も移転元地域での「負担軽減」ということで説明してきたところだ。従来の説明がペテンであり、結局嘉手納にしても、厚木にしても負担は軽減されることはない、ということを問わず語りに語っているのである。

 そもそも「全体として負担軽減」という理屈が観念の産物以上ではありえないことは明らかだ。民衆の視点、とりわけ軍事基地周辺住民の視点からすれば、基地の存在・存続こそが負担でありその継続と増大なのである。

 

●4 伸縮自在の交付金対象指定

 第二条においてこの法案中の用語の定義づけをしている。だがその「二 駐留軍等の再編」について、『日米ロードマップ』記載の米軍や自衛隊の「部隊又は機関の編成、配置又は運用の態様の変更」として定義づけをしつつ、但し書きとして事実上横須賀市をも「駐留軍等の再編」の中に組み込む規定を入れている。理屈は、岩国へ移駐する厚木の艦載機部隊は横須賀に配備されている米空母部隊の所属だからこの「駐留軍等の再編」に該当する、というわけだ。現在の「キティホーク」に替えて原子力空母「ジョージ・ワシントン」の配備が来年夏に計画されているが、それは決して『日米ロードマップ』に記載されている事項ではない。もちろんそれはアジア太平洋レベルでの米軍再編・再配置の一環であることは確かなことだ。だが、それはこの法案が対象とする『日米ロードマップ』「五・三〇閣議決定」の枠からは外れた事象である。決してそれを認め、良しとするわけではないが、そのこと自体からすれば日本側提供施設の運用の変更の問題であり、したがって、それを受け入れるからといって、特別の配慮が横須賀市になされるわけではありえない。だが、おそらくは蒲谷横須賀市長の態度転換の材料に、「再編交付金対象化」を使ったのであるだろう。

 いまひとつ、法案第七条についてである。米軍再編にかかわる米軍や自衛隊の施設・区域の所在する自治体は「再編関連特定周辺市町村」として、首長の「容認」をもって「再編交付金」支給対象とすることは第六条に規定(後述)しているが、加えて第七条に「再編関連振興特別地域」なるものを防衛大臣が指定できる、とある。その条件は「一 駐留軍等の再編による当該再編関連特定周辺市町村の区域に対する影響が著しいものとして政令で定める場合に該当し、又は該当すると見込まれること。 二 当該地域の振興を図ることが、当該再編関連特定周辺市町村に係る再編関連特定防衛施設における駐留軍等の再編の円滑かつ確実な実施に資するため特に必要であると認められること。」の二つだ。二項はあからさまな「特定周辺地域」自治体への圧力を組織するための規定だ。

 法案の名称としても使用されている「円滑かつ確実な実施」という文言こそ、この条項のキーワードでもあるのだが、辺野古崎新基地建設といい、岩国基地への厚木部隊移駐といい長期にわたる計画である。その間には、選挙もあれば、首長の態度転換もありうる。それをも見越して搦め手でその周囲を「振興策という名の補助金漬け」にしておくという寸法なのだ。この「特別地域」を指定するのが防衛大臣であってみれば、まさにお手盛りで、伸縮自在の交付金・補助金支給対象地域の指定が可能となる。結果は目に見えている。財政の公平原則の破壊と恣意的軍事費の濫用であり、地方諸自治体間の反目等々である。

 

●5 専管事項論の行きつくところ

 この法案を何としても廃案へ追い込み、二度と再提出させてはならない。その中心的な問題点は、第六条の再編交付金規定である。条文案中「進捗状況およびその実施から経過した期間に応じて」「再編交付金を交付する」という点だ。メディアなどでは「出来高払い」などといわれているがそんな生易しいものではない。再編交付金をどのように出すかという問題の前に、再編計画への首長の「容認・非容認」を問わず、「五・三〇閣議決定」に基づいて再編計画は進めてゆくということが大前提にある。「受け入れ(容認)」ということがない限り、再編計画は進行するが再編交付金はゼロということだ、である。それがない限りは、一方で再編計画は進行し、しかも再編交付金の交付はゼロ、というものだ。この重圧に対して反対をつらぬくことは、各首長そして当該地域住民には大変な覚悟が必要となる。当該地域における分断と対立は決定的なものとなる。カネと権力の両方を用いた無理やりの米軍再編計画促進のための条項なのだ。明々白々な「専管事項論」に基づいた地方自治原則への大破壊なのである。行財政の公平原則を踏みにじる差別・選別の立法化・原則化なのである。まさに日米軍事一体化の前には憲法九条や地方自治規定はおろか、基地周辺住民の基本的人権を踏みにじることができるというところへと至る「専管事項論」の最大限拡張の条項にして法案なのである。逆に言えば、「専管事項論」とは具体的にはこのような形をもって人民におそいかかるものなのだということを深く確認しなくてはならない。

 さらに、である。法案条文の「進捗状況」に応じた交付金支給ということだが、これは防衛省作成資料によれば、「再編計画を受け入れた場合」「環境影響評価に着手した場合」「施設整備に着工できた場合」「再編を実施した場合」との段階に区分し、累進的にその額が増加する仕組みにしている。たとえでいえば次のようなことだ。毒薬を差し出し、これを飲めという。自ら進んで飲む者には褒美を与えるといい、拒否する者には無理やり口をこじ開けて飲ませてそのままにしておく。進んで飲む者が途中で飲むのをやめないように、どんどん褒美を多く与えて、最後には毒が全身に回ったのを見定めて、褒美を打ち切る。まさに陰湿きわまりない「イジメ」の手口そのものではないか。このようにして今後形成されてゆこうとする「安保・防衛問題」領域での政府と地方自治体との関係を「対等の関係」といえる筈もない。「軍事御用地」「安保天領」とでも言うほかはない。

 

●6 国際協力銀行法の特例

 法案において結局「負担軽減」というのは、在沖海兵隊のグァム移転を示すものでしかないということ、そして七千億円にのぼる費用を支弁する根拠はさらさらないことはすでに指摘したとおりである。だがその支弁にあたって、いわゆる「真水」部分三千二百二十億円は財政支出として基地司令部施設や兵舎などにあて、他の基地インフラや家族住宅・学校などの建設には国際協力銀行の融資業務として行うとしている(別表B参照)。そのためにこの法案中に「第十六条 国際協力銀行業務の特例」を設けている。そもそも開発途上国などへのODA(政府開発援助)の業務に米軍基地関連施設(家族住宅や学校は米軍基地そのものである)を無理やり押し込めるという無残な法形式となっている。およそ外国の軍隊の基地新設費用はおろか、そのインフラから兵士家族の住宅まで資金面で面倒を見るということが一国の法制度の体系中にはらまれることがあるだろうか。このような「特例」など到底認めることはできない。そしてさらに、この条項が付加されることで、形式上は「米軍再編」という安保課題に即した法案という体裁をとることができるが、その内実は、「再編関連特定周辺市町村」およびその周辺自治体にかかわる法案+グァム移転費用の支弁方法の二つのものである。

 これがもしも別々の法形式において立法化されるならば次の問題が生起する。すなわち憲法第九五条「住民投票」規定との関連である。「一の地方公共団体のみに適用される特別法は……その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない」との条文は、国が特定の地方公共団体に対し、不利益を課すような法律を安易に制定することを防止するために規定されているものだが、まさに「負担増大」への屈服・容認を迫るための法案が住民投票にかけられて同意を得ることなど決してできるわけがない。だからこそ、この国際協力銀行法の特例を入れ込んだ形式にして形式上一本の法案となしたとも推測できるのである。なんと狡猾なことであろうか。

 

●7 法案が時限立法であることの意味

 最後にこの法案が、時限立法であること、それでしかないことの意味について明らかにしておこう。原則十年間、計画実施にさらに必要な場合は五年間に限り延長あり、という時限立法である。だが考えてもみよう。米軍再編最初の十年間には「再編交付金」や再編関連事業への国庫負担率高率化などの措置がとられたとして、米軍再編によって強化を果たした日米軍事基地の実際の機能展開はまさにそれからである。辺野古崎新基地建設に八年間、厚木艦載機部隊の岩国移駐まで八年間ほどのスケジュールからこの十年間という区切りが付けられているのは間違いないとして、問題は「その後どうなるか」なのだ。もちろん、それ以後もずっと、「原発立地特措法」のごとく永続的に該当地域を補助金漬けにせよ、などと主張するのではない。米軍再編計画もろとも基地を撤去する以外に住民にとっても、また全民衆にとってもそれ以外にとるべき方向はありえない。その点を確認した上で、十年をもって打ち切りとなることの意味である。カネと引き換えに毒そのものを飲ませ続けて十年間、そのあとは「耐性」ができたとばかりに補償を打ち切るということは、単にそれだけのことにとどまらない。青天井の日米軍事基地強化、基地使用の質・量ともの増大が控えていることは明白だ。それはこれまでの米軍再編日米協議の内容や、日米安保・外交諸文書などを見れば一目瞭然である。「世界の中の日米同盟」の軍事的基盤を保障するものとして米軍再編があり、大きくは米国防戦略に枠付けられた日米軍事一体化、基地強化があるのだから、基地被害と基地の無制限の活用はとめどなく進行する。この点もまた、この法案を何としても廃案へ追い込まなくてはならない理由の一つである。

 

●8 米軍再編計画との闘いさらに進めよう

 それにしても、なぜ政府は年度末ギリギリのこの時期に、しかも米軍再編予算案を先取り的に策定し、あたかもそれが実施に移されることが既定のものであるかのような形で地元自治体などに触れ回りつつ、他方その根拠たる法案を後から示すような「綱渡り」に及ばざるをえないのか。ここに米軍再編計画のウィークポイントが凝縮して現れていると見なくてはならない。つまり、「負担軽減と抑止力維持」ということは、言葉の上では成立しえても、現実にはそのようなことはありえない、ということを小泉や安倍自身が百も承知の上で、これを進めざるをえないからである。与党衆院絶対過半数という国会内情勢をも奇貨としながら一気にことを運んだのが『日米ロードマップ』であり「五・三〇閣議決定」なのであった。だがいま、あらためてそれを国民・住民の前に説明し「合意」なるものを取り付けなくてはならない時期に及んで、そのペテン性と内包する矛盾が露呈してゆくことは必至だからである。これが第一の弱点の露呈である。

 第二にはそれを糊塗しつつも、米政府の重なる日本政府への再編計画着実実施の要求との板ばさみ、そして根底的に各地住民そして沖縄―「本土」民衆の批判と抗議、怒りの増大化との間で、デタラメを承知の上でこのようなご都合主義的かつ居丈高な法案を作るしかなかったという事情もある。ここからでてくるのは憲法九条破壊はもとより、地方自治の破壊等々、およそ憲法以下の日本の法体系内部に異質なものを持ち込むこととならざるをえない。単なる日米政府間の約束に過ぎない「2プラス2」合意が、法体系を侵食していくのである。「美しい国」も「希望の国」もあったものではない。

 第三に、このような法案が提出されざるをえないこと、そして廃案要求へとたたかいが方向付けられることを通じて、米軍再編計画そのものへの批判と怒り、たたかいがまさに正当性をますます高めながら推進されてゆく、という点である。もちろんこれには、米軍再編とたたかうすべての人々のきわめて重大な意識的努力を要する。だがここにおいて、たたかいをおしすすめることができ、「廃案へ」の声とたたかいを巻き起こすことができるなら、『日米ロードマップ』と「五・三〇閣議決定」以後の政府対当該地域住民との対峙関係を、より攻勢的なところへと高めてゆくことができる。まさに、安倍政権の最弱の環の一つこそ、この米軍再編問題であり、ひざ元山口における岩国のたたかいなのである。地元への「合意」取り付けといいつつ、本稿執筆時点で、対象五十五自治体中十六の自治体が、内容はともあれいまだに「非容認」であるという事実もある。

 昨十一月岩国国際集会においてアジア共同行動が培った、アジア米軍総撤収をアジア太平洋地域全民衆の共通の課題とすること、そして岩国をはじめ米軍再編と対決する各地の民衆のたたかいを支援し共闘しながら全人民の政治課題として、安倍政権―自公政権打倒の水路を切り開くたたかいとして、米軍再編計画を打ち砕くたたかいを一層前進させようではないか。 (2007年2月25日)

 

 

 

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